空とシャボンとさくらんぼ
「その、さ……知ってたらあんな台詞は出てこないよな、って意味」
「? あんな台詞?」
あたし何かヘンなこと言ったっけ?
思い返してみるけど……心当たりがない。
言いにくそうにしている桜坂くんを、あたしはきょとん、とした眼差しで見つめる。
しばらく言い淀んでいたけど、桜坂くんは口を開いた。
その頬が何故か赤く見えたのは、多分あたしの気のせい。
「俺の名前、空なんだ。
桜坂 空」
「空、くん…かぁ」
綺麗な名前だね、と言おうとして、思考が一瞬にして止まる。
………そら…空……?
『つまり、あたしは空が好きなんだよ!』
『それってさ、愛の告白なわけ?』
……………あ。
桜坂くんの言っている意味が分かって、ボンッ!!と効果音が出そうなぐらいにあたしの顔は一気に赤くなった。
つ、つまり…あたしは桜坂くんに、あああ、愛の告白を……!?
「あああの、あた、あたし………!!」
「落ち着けよ」
そんなこと言われても落ち着けないよ!!
空が好きってことは、桜坂くんのことを好きって言っているようなもので、あたしはそれを本人の目の前で言っちゃったわけで……!!
あたしの頭の中ではさっきの言葉で溢れていて、ぐるぐると回っている。
「ち、違うのっ!!あたし、ただ………!!」
「だから落ち着けって。分かってるから」
「へ?」
顔をあげると桜坂くんが呆れたように笑っているのが見えた。
「俺の名前知ってたら、好きとか、そんなこと絶対言わなかっただろ?
ちゃんと分かってるから」
な?と同意を求められて流されるままに頷くあたし。
でも、どこか違和感があって……
授業が始まるからと言ってあたしは一足早く屋上から出た。
いつも、一緒に教室には向かわないんだ……
それは、どうしてなの……?
「どうして、こんな気持ちになるの……」
ポツリと知らないうちにこぼれたあたしの本音は、少し薄暗い廊下に消えていった。