空とシャボンとさくらんぼ



意味が分かっていないあたしを他所に、真琴は話を続ける。



「ねぇ、アイはあの噂知ってる?」


「うわさ…?」



きょとんとするあたしを見て、真琴は小さくやっぱりと呟く。



「……最近、アイってお昼休みになると屋上行ってたでしょ?」


「うん」


「そこで桜坂と会ってた」


「うん」


「それを誰かが見たらどう思う?」


「どう思う……?」



首を傾げるあたしに真琴はつまり、と言った。



「アイと桜坂がデキてるって噂になってたのよ」


「……へ?」



予想もしない答えに一瞬頭が真っ白になる。



「多分、みんな面白半分で噂していたみたいだし、二人の耳には入れないようにしてたんだと思うけど……
その噂のこと、この前、桜坂が気づいたみたいなの」


「そ、なの……?」



これもあくまで噂よ、と真琴は言うけど、その瞳はそれが真実だと言っているみたいに真剣だった。



「わたしは桜坂のことよく知らないからなんとも言えないけど……
アイの話を聞いていると、桜坂の悪い噂とは全然イメージ違うし」



というか、むしろ逆なイメージだわ、という真琴の言葉にあたしも頷く。


全くもってその通りだよ。


あたしも最初びっくりしたもん。



「だから、もしかしたら……」




アイのこと考えて、関わるなって言ったんじゃないの?




その言葉を聞いた瞬間、ポロリと新しい涙があたしの頬を濡らした。



「うっ…うん……きっと、そうだよぉ…」



あたしは、ちゃんと知ってるもん。


桜坂くんが、ほんとはすごく優しいってこと。


手を踏んじゃっても、怒らなかった。


倒れそうになったあたしを、支えてくれて、心配してくれた。


お礼って言ったら、ありがとうって、優しく笑ってくれた。


あたしとの話だって、覚えててくれた。


あたしに、迷惑かけないようにって、あたしのこと考えてくれた……





< 32 / 46 >

この作品をシェア

pagetop