空とシャボンとさくらんぼ
それだけ言って、桜坂くんは立ち上がって屋上を出ていこうとする。
…待って………
止めないと……まだ、ちゃんと言ってない、聞いてない。
「待って!ちゃんと本当のこと言ってよ!!」
扉の前で桜坂くんは止まってくれたけど、あたしの方に顔を向けようとはしなかった。
「今のが俺の本音……」
「うそっ!!」
はぁ、はぁ、と粗い息をして、あたしは強く手を握りしめた。
「……あたし、ちゃんと知ってるもん」
桜坂くんが、誰よりも優しいとことか、いつも無表情で怖そうだけど、本当は笑った顔が無邪気な子供みたいでかわいいとか……
それに、桜坂くん、自分で気づいてた?
桜坂くんは、あたしと一緒に話をするとき、いつも目を見て話してくれてたんだよ。
なのに……今は、目どころか、顔だって向けてくれない。
いろいろ考えるのに、言葉にできない。
それがもどかしくて自分に苛々して……
「…っ、ばかぁ!!」
「、って」
あたしはスカートの中に入れていたものを、思いっきり桜坂くんに向かって投げた。
赤く光るのは、いつか桜坂くんにあげたさくらんぼみたいなゴム。
それは桜坂くんの頭にクリーンヒットした。
お守りのかわりに持って来てたけど凶器に早変わりだ。
「何するんだよ、宗田」
「……き」
「は?」
少し怒ったような顔が、あたしに向いている。
……初めて会ったときは、噂しか知らなくて、怖いってことしか思わなかったけど。
話をするうちに、桜坂くんのことを知っていくうちに、そうじゃないって分かった。
いつでも真っ直ぐにあたしと向き合ってくれて、優しく笑ってくれた。
いつの間にか、あたしは、そんな桜坂くんが………
きっ、と睨み付けるようにあたしは桜坂くんの顔を見た。
「あたしは……!!」
声だって、手だって、震えてるけど……今、伝えなきゃ。