空とシャボンとさくらんぼ
あのときと同じ……真っ青な空が一面に広がる。
あたしは粗い息を整えながら顔を上げた。
屋上の真ん中に、こちらに背中を向けて立っている。
「お、さか、くん……」
以前は太陽の光を反射してきらきら光っていた髪が、今は自然な黒髪になっていた。
あたしの声が聞こえたのか、桜坂くんはゆっくりと顔を向ける。
あぁ……やっぱり、桜坂くんだ。
あたしを見る、真っ直ぐな視線は変わってない。
あたしの……大好きな瞳。
「来ると思ってた」
「………っ」
そう言って桜坂くんは優しい笑みをこぼす。
もう、見られないと思ってた……
向けてくれないと思ってた……
その笑顔があたしに向けられていることが、ものすごく嬉しい。
たったそれだけのことなのに、視界がゆらりと揺れた。
「ずっと……人を好きになることが怖かった。
俺が…俺なんかが、恋愛なんてしてもいいのかなって……する資格なんて俺にはないんじゃないかって……ずっと思ってたんだ」
初めて、だ……
こうやって桜坂くんが自分のことを自分で言ってくれるのは。
あたしはこぼれてしまいそうな涙を必死で堪える。
「そう、思ってたのにな。恋愛なんてしない、人を好きにはならないって……でも」
あたしを見てさらに綺麗に笑う桜坂くんに、あたしの心臓は素直に音をたてた。
「ここで一緒に過ごすうちに、いつの間にか、その時間が楽しいものになっていった。
話したり、笑いあったり、ただ、隣で座って空を見上げたり……
そんなちょっとした時間が俺にとって特別な、かけがえのないものになっていったんだ」
ゆっくりと、桜坂くんがあたしに向かって一歩を踏み出した。
「いろいろなものを失ってきて、それを諦めてきた俺だけど……
初めて、失いたくないって、思ったんだ」
そのままゆっくり、けど確実に桜坂くんはあたしに近づいてくる。