彼の秘密と彼女の秘密
このままでは押し切られてジリ貧になると嵐や誰が見ても明らかな展開に、
瑠璃は深く息を吐いて集中を高めた。
その時の表情は、19歳の少女の物ではなく、一角の兵法家のそれであった。
「...『桜』」
瑠璃が正眼に構えなおして呟いて、脱力した瞬間を見逃さずに、凛は思い切り振りかぶる。
凛が望んでいた状況が目の前に広がったのだから遠慮もない。
「これで終わりです。面ーー!!」
次の瞬間には、瑠璃の頭に渾身の力の込めた凛の竹刀が振り下ろされて、
瑠璃が負けるという光景が広がるだろうというのが、女中達の予測だった。
だが倒れているのは凛だった。
周りがざわついた。
当主が負けたのだ。無理もない。
「やれやれ、瑠璃がこんなに強いとは。僕が面を繰り出したのを、
瑠璃は僕の竹刀を突きで軌道を逸らした上に喉を突かれるとは」
半分周りに説明しながらも、負けた自分の状況を把握している。
「今の、見えたの?」
「はい。たぶん嵐もです。ここにいる人間で見えたのは僕と嵐と斉藤と桐谷だけでしょう」
「そうやなぁ。俺、凛が俺以外に負けるん初めて見たわ。瑠璃ちゃん強いなぁ」
「完敗です。でもまたしましょうね」
「うん」