君と防音室で…
ピアノ三昧?喧嘩三昧!?
放課後。
私の通う高校、唯一の防音室を貸し切ってピアノを弾く。
それが毎日の日課。
防音室じゃなくても…音楽室でもピアノは弾ける。でも私は防音室にいる。
『帰ろー♡』
『おう』
とか話してるリア充の会話が、防音室なら聞こえないから。
はっきり言って…高3の夏、この時期にベタベタされると見てて暑苦しい。
別にね?リア充うらやましーとか思ってない。見てても別に萎えない。
ただ、私は…
恋をしていいような人じゃない。
高1の時、私には彼氏がいた。
バスケ部で1年なのにもうエースで、かっこ良くて自慢の彼氏が。
毎日毎日、部活をやってない私は体育館の2階で彼氏を見て…部活が終わるのを待ってた。
「美音ー!やっと終わった〜毎日待たせてごめんな!」
「大丈夫だよー!帰ろ!」
毎日待たせてごめんな!って言ってきて…その度に大丈夫だよ!って言う。
そんなやり取りが私と彼氏に放課後!って感じを与えてた。
ある日、2人で肩を並べて帰ってる時、私は線路で物を落とした。
「美音!!!危ねぇー!!!」
拾おうとしてた時、電車がすぐそこまで来て…私はひかれた。と…思ってた。
彼氏は咄嗟に私を突き飛ばして、守ってくれた。
でも…その彼氏はひかれた。
私はすぐに救急車を呼んだけど…救急車が来た時にはすでに意識がなくて、呼吸もしてなかった。
彼氏が死んでしまった時思ったんだ…
私が物さえ落としてなければ、拾おうとしなければ…って。
2年たった今も彼氏が死んでしまったっていう心の傷はよくなった。けど…恋愛をするのが怖い。
また私のせいで…人が死んだら…そう考えると怖くて恋愛なんか出来ない。
コンコンっ
防音室でピアノを弾いてると決まって来る人が2人いる。
「美音先輩!」
1人は今ドアの向こうにいる…後輩のやっちゃん(矢木真央)。
「やっちゃんいらっしゃーい」
「こんにちわー!」
この子は私のピアノのファンだという。
そしてもう一人、来る人がいる。
コンコンっ
やっぱり来た。
「どうぞー」
「やっほ!」
先生らしくない…20代前半の女教師。
「さ、演奏して!」
この人も私のピアノが好きらしい。
「お願いします!」
私の大好きなドビュッシー(作曲家)の月の光を演奏する。
弾き終わると決まって先生は言う。
「上手いんだから…音大行きなさいよ!」
と…
「嫌です。私は音楽科に入りますけど…音大は行きませんよ。」
なぜかこの先生は音大に行かせたがる。
きっとこの人は私の家を知らないから。
…私の父、祐(たすく)はプロのバイオリニスト。
音大なんか行ったら、
『あの吉岡祐の娘!?』
とか言われるに違いない。
「もったいないなー!」
「先生になんて言われようと…もう1ヶ月後には第1志望の大学の音楽科の実技試験もうすぐなんですから!」
「どこ受けるんだっけ?」
「都内の○○私立大学の音楽科です。」
「あーあそこの音楽科は有名だもんねぇー…」
「はい。そういうことなんで、練習したいんで黙っててくださいねー!」
しゅんとする先生。
よっぽど音大に行ってほしいらしい。
「あ、先輩。今日いちごタルト持ってきてたんです!食べましょう?」
「手作り!?すごい!食べよ!」
「先生も食べ…」
「ありますよ。」
「さすがやっちゃんね。」
いちごタルトを三人で食べて…練習して、リア充達が帰った頃に私は帰った。