君と防音室で…





「うっわ俺やべぇ。制服びっしょだしー美音ー制服干していい?」


「あ、いいよー。ちょっと待ってて」


優馬の言うとおり私も制服がびしょびしょ。ワイシャツが体にピタッとくっついてきていて気持ち悪い。


「はい」


「お、サンキュー!」


2人でハンガーに制服をかける。
変な光景だと思った。


「ワイシャツまで濡れてるし」


と言ってワイシャツまで脱ぐ優馬。
綺麗に割れた腹筋。
あまりに綺麗で見とれていた。
(変態っぽい?)


「私も着替えてこよ…」


ボソッと言って部屋を後にした。

着替えながら思った。
優馬ってなんなんだろうって…
優馬は今日一日でいろいろ話してくれたけど…どこから来た、とか何部とか…全然言ってくれない。


着替え終えてリビングに行く。



私は耳を疑った。





今ここで聞こえているピアノの音があまりにも繊細で悲しい音だから。

それに…

弾いていたのは優馬。


「…ピアノ。弾けるんだ」


「あ、勝手にごめん。5歳から中学入学までやってただけ」


それにしても上手いと思った。

でも…優馬の繊細で悲しい音は、どういうことなんだろう?
繊細で悲しい音で弾くには…それなりの技術、または…感情がないと出すことは出来ないと思う。


「…なんか悲しいことでもあるの?」


「…ないけど…あ、美音ピアノ弾けよ!聞きたい」


一瞬間が空いてないと言った。
その時…目が…暗かった。
何があったの?知りたい。と純粋に思った。


「あの…月の光だっけ?あれすっげー感動すんだよなー」


優馬に言われてとりあえずピアノを弾く。




弾き終わると拍手してくれた。


「やっぱすげぇよ!」


「月の光ね、学祭のBGMで弾こうかなって思ってるんだけど…どう?」


「いい!すげぇいい!ぜってーみんな感動する!」


やっちゃんレベルに目をキラキラさせる優馬。嬉しい


「あ、まだ弾こうと思ってる曲があるんだけど…聞いてもらえる?」


「おぅ!」


3曲くらい弾いた。1曲終わるごとに感想を言ってくれた。

そんなこんなでピアノを弾いていたら大雨も軽くなって来た。


「そろそろ学校行こっか」


「そーだなー」


制服は…まだ半乾きだけど着て…家を出る。


「ここから学校まで何分くらいかかんの?」


「15分くらい?かなー」


「案外近いな」


そう。高校は家の近く。
もっと…芸術科がある有名な高校に行きたかった…けど…ピアノのレッスンがあるから早く帰らなきゃいけないからと近くの高校にした。

優馬にも、聞かれた。
なんでここの高校なのか?と。

私からしてみれば…なんでいきなり、この時期に転校して来たのか知りたい。


とか思いつつ、なんか嫌な過去があったら聞かれたくないだろうと思うと聞く勇気が出てこない。
私自身も恋愛のことについては忘れかけてる今でも聞かれたくないから。



「あー着いた。ほんと近いな」


「改めて考えるとほんとに近いかも!」


「いいね。学校近いと便利そうだし」


「忘れもの、すぐ取りに帰れるよ!」


「うっわ!まじかよーずりぃ!」


いいでしょー
と言うと優馬は自慢か!と突っ込んで来た。
優馬は言葉のキャッチボールが上手いのかもしれない…会話がすごい勢いで弾む。




教室に入ると、衣装係の子だけ残っていた。


「もー!美音の採寸してなかったから衣装作り入れなかったよ〜!」


「あ、ごめんごめん。一回家に帰ってたからさ」


「大雨だったもんねぇ」


「そーもうビショビショだよ!」


カナが私に近づいて制服に触れる。


「まだ湿ってるしー!」


ビショビショだって言ったじゃん!
湿ってるとか言わないでって…


「さ、採寸採寸!」


カナのお付きの人みたいな2人の子がメジャーを持って私を囲んだ。
結構長身のカナとお付きの子達。私の背は156cm。囲まれると威圧感がすごい。
いじめられるみたいな恐怖感。


「さ、男子は帰んなー」


「…おぅ。じゃーなー美音」


「あ、優馬バイバイー」


優馬が教室を出た瞬間に計り始めたお付きの子達。
目が…もうプロの目だ。

< 10 / 11 >

この作品をシェア

pagetop