君と防音室で…
帰宅しても…誰もいないしずかな家。
こんな時には決まって行く場所がある。
「やっほー!」
「お、美音だ!」
そこは…賑やかな繁華街。
多くの若い人で盛り上がる夜の街。
(とか言ってもまだ補導されない時間帯)
「今日も集まってるね」
「まぁね!暇なんでー居心地いいしね」
10人くらいの高校生が集うこの場所。
ほんとはこんなとこにいたら…補導される。だからみんな高校名がわかんないように…制服を、特定されないようにアレンジする。
もちろん私も。
赤の学校指定のスカートにパーカーを着て…ブレザーは脱ぐ。学校指定の靴、鞄、靴下すべてを変える。
ほんとは…こんなとこ来ちゃいけないとこだから。
「まさかさー、美音レベルの超可愛くて…優等生がさ繁華街に来て夜遊びしてるなんて誰も思わないよね」
そう。
表の顔はただの優等生。
裏じゃないけど…素顔?ってやつは…優等生なんかじゃない。
繁華街で遊んでるただの馬鹿なのかもしれない。
ここに来るようになったのは…彼氏が死んだ後。
寂しくて悲しくて…居場所が温もりが欲しくて、ここに来た。
はじめは変な不良にからまれて最悪だった。けど…今は居心地のいい場所。
喧嘩も人並み以上になったと思う。
たくさんの人に喧嘩の仕方、勝ち方を教えてもらった。
一応ピアノやってるから手を傷つけるわけには行かないから強い人からでも身を守るくらいは出来るようになった。
「そうかな」
「そうだよー!だって美音はもう推薦で大学、決まってんでしょ⁇」
「推薦で入試が受けられるだけだよ!まだ受けてないからさ」
「私なんか受けるとこさえ決まってないよ!」
そして…この子、上野陽菜は私が繁華街に来て初めて喧嘩で勝った子。
それでいて初めての繁華街仲間。
「同じとこ来る?」
「まぢ!?行きたい!美音と同じ大学なら毎日通うよ!!」
「本気⁇」
「もち!」
この子はいつも笑顔。でも…このスタイル、ふわふわにされてるロングヘアー、顔立ちの良さ、メイクのうまさ。すべてそろってるようなルックスから人に非難される。
いい子なのに。
私は…外見で人の価値観を判断する人が一番嫌い。
結局中を、性格を見ずに判断する人が多い世の中はげんなりする。
「えぇ!陽菜、美音と同じ大学行くのかよ!?俺と同じ大学がいいんじゃねぇの!?」
「王雅とも同じがいいけどさ!美音は大事な信友!それに王雅とはレベルちがすぎるよ!!」
この人は佐伯王雅。
茶髪、ピアス、腰パン。
チャラい外見とは違って超絶頭がいい。
性格も…嫌いじゃない。
「ちっ。妬けるぜ!!美音め!」
そして…陽菜の彼氏。
お似合いカップルって感じだけど…そこら辺のリア充ほどの熱さはない。
結構ドライだから…2人は。
「あーあ…このメンバー楽しかったな。でも…今日で終わりかな…」
私の一言で場の空気が止まった気がした。
「美音?最後ってもう来ねぇってことかよ!?」
「そう。1ヶ月後にはもう試験だからさ、真剣に練習したいんだー」
「じゃあ、試験が終わったら来るのか!?」
「終わってからはたまに来るよ!」
「そうか…」
王雅は笑顔で頑張れよ!待ってるとか言ってくれた…けど…陽菜は口を開かずにうつむくだけ。
10分くらいしてようやく口を開いた。
「…1ヶ月以上美音に会えないの?」
「ごめんね?」
「死ぬ!!」
「え。死なないから!」
「でも…そっか!信友なら応援しなきゃだね!!私も一般で受けるよ!だから…美音は推薦で頑張って!」
さっきの同じ大学ってやつは…本気の本気らしい。