俺様とネコ女
課長が席を立って近付いてくる。私と直哉さんの間にしゃがみこみ、コソコソと直哉さんに耳打ちを始めた。椅子に座ったまま上半身をひねり、課長を見下ろす形になった。


「大沢くん。ここだけの話なんだけど、上野ちゃん最近失恋しちゃったの。新しい恋しかないと思うのよね。大沢くんに上野ちゃんを任せてもいい?」

課長は直哉さんの両手を握って祈りそうな勢いだ。

課長の言う失恋。課長はコウのつもりでも、以前リアルな失恋話を聞かせてしまった直哉は、祐樹のことだと思うはず。

その誤解、すごくいやだな。


「課長、俺、こころちゃんと2人で抜けてもいいですか?」

「なぁに?もう名前呼び?いいよいいよ。上野ちゃん。ファイト」


両手で可愛いガッツポーズの課長。完璧勘違いだけど、ありがたい。課長のおかげで難なく2人で店を出ることができた。

会社の最寄り駅であるS駅近くの繁華街は、かなりにぎわっていた。
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