俺様とネコ女
「おーい、ほんとに寝るのー?」


後ろのほうで声がするが無視だ。せっかちすぎでしょ。短気め。とも聞こえたが無視だ。一人、洗面所のミラーの前に立ち歯磨き開始だ。

もうすっかり違和感のなくなった赤い歯ブラシがそこにある。さっきのキスを思い出す。俺の好きな、あいつのキスだ。


「すぐ終わるって言ったでしょ」

隣に並んで歯磨きを始めたここが、肘でぐりぐり押してくる。それをかわすと、追いかけてくる肘。にこにこと、嬉しそうだ。

同じように右手で持ち、同じタイミングで左右させる自分たちが、鏡の中にいる。

鏡越しに見つめあい、微笑むここを訳もなく睨む。


それを見ると、笑えてくる。
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