俺様とネコ女
もう目的地は近い。フェリーに乗り換えた。何年も住んでいるが、ここに来るのは初めてだ。

こういう、所謂"デート"と言われる行為は、いつ以来だろう。それにこんなに苦痛じゃないデートは初めてだ。

確実に言える。俺は、楽しんでいる。


「見てコウ!船!」

無邪気に喜ぶここは、本当に幼く思える。少しの間船に揺られ、大きな参道の商店街を抜けると、水族館に着いた。

思ったとおり、ここは楽しそうに水槽の中を覗いている。

「ねえ見てあれ」


メインの水槽の前。自然に腕を絡ませてくる。


「おい、あれ旨そうだな」

「最低」

信じられない。と大げさにしかめっ面をして、笑う。 俺は魚より、ここを見ている方が楽しい。ころころ変わる表情。

笑って、じゃれてきて、かと思えば真剣に説明を読む。

期間限定イベントも、イルカのショーも、どうでも良かった。

ここが楽しそうだったからそれでいい。それだけでいい。
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