俺様とネコ女

「おかえり!」


ここはいつも、音を聞きつけて玄関に飛んでくる。

抱きついて、ふわり、キスをするのがここネコの習性だ。


「ただいまは?」

「ただいま」


ここと暮らし始めて1週間が経過したが、いまだに出迎えられることに慣れない。

"ただいま"の一言が、なかなかすんなり出てこない。


「ごはんにする?お風呂にする?それとも、」

「飯」

「こらこら、最後まで言わせてよ」


玄関を開けた瞬間の食事の匂いや、人の存在を感じるのも、まだ、違和感が拭えない。拭えないが、幸せでしかない。

ビールを飲みながら、ここの手料理を食べて一緒に風呂に入る。それから、ここを食べる。

いくら帰りが遅くなっても、休日返上でも、家に帰ればここがいるという事実が、俺を奮い立たせる。


「ここ」

「ん?」


眠そうに目をこする裸のここが、ごろごろと、身体をすり寄せてくる。


「正式に引っ越してくるとなったら、お前の親に挨拶に行くから」

「うちの親、緩いから大丈夫だよ」

「いや、ダメだ」

「コウのそういう真面目なところ好きだよ」


眠いよう。と布団を頭まで被る。布団の中で、服着させてとじゃれてくるここネコ。

甘ったるい余韻の中。すっぴんで年相応の幼さも見えるのに、俺を陶酔させる色香を漂わせる。

仕方ねえなと、下着をつけてやる。
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