俺様とネコ女
仕事を終え、正面玄関前で直哉さんを待っていた時、大きな笑い声が聞こえ、振り返る。

声の主は山本主任だ。と、その隣にはコウ。きっと外回りから帰ってきたんだ。


コウの姿を一目見ただけで、涙が込み上げてきて唇を噛みしめる。そのまま気付かれないように、トイレに駆け込んだ。


数分後に戻ってみると、コウの姿はなかった。避けてばかりいられないこともわかってる。今夜、コウが帰ってきたら、普通にしなきゃいけない。


「こころちゃん、お待たせ」

前髪をスルリと指で整えながら、夕方とは思えない明るい笑顔の直哉さん。急いできてくれたようだ。


「お疲れ様」

「うん。おつかれ。待ち合わせ場所間違えた?視線が刺さる」

「だよね。ごめんね。また噂が…」

「逃げよう」


直哉さんが、悪戯っぽい笑顔を浮かべ、背中にポンと触れた。エントランスにいた社員たちの視線から逃れるため、急いで会社から出る私たちを。


コウが見ていたなんて、思いもしなかった。
< 274 / 337 >

この作品をシェア

pagetop