俺様とネコ女
「こころちゃん」

生ビール1杯で、ほんのり顔を赤くする直哉さんが、箸を置いた。


「大丈夫?」

直哉さんとの距離が狭まる。カウンターに、僅かに身を乗り出し、覗き込んできた顔は、真剣そのもので。

それだけで、すべてを悟った。直哉さん、知ってる。


「直哉さん。…もしかして、美咲から聞いた?」

うん。と小さく頷き「コウ、東京だって?」と、優しく微笑んだ。

「今朝美咲ちゃんから電話がかかってきて、支えてあげてほしいって言われたよ。大丈夫。絶対誰にも言わない。もちろんコウにも。俺が力になるよ」


美咲ありがとう。親友の優しさに触れ視界が揺れる。泣きすぎだ、私。

「辛かったね。一人じゃ抱えきれないでしょ」

「ごめん。最近涙腺おかしくて」


バッグからハンカチを取り出した。眼鏡を外し、瞳を押さえる。

「コウに言えないし、普通にしてなきゃいけないのに、できそうになくて、美咲の家に…」

「うん。あいつ勘いいから、一緒にいたらこころちゃんがおかしいって、絶対気づくよね」

こみ上げてくる悲しい思いを抑えきれず、涙となって溢れだす。まるで、雨みたいだ。
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