俺様とネコ女
「まだ6時来てねえし。定時上がりってすげえな」


部屋のエアコンをつけた後、腕時計を確認しながら、コウが独言した。コウの帰宅はいつも遅い。平日こんな明るい時間に家にいるなんて、違和感があるんだろうな。


「ごめんね。いつもこんな時間に帰って」

チラリと視線をこちらに向けて、会議室で手渡された封筒を、ローテーブルの上に置いた。コウがソファーに座ると、レザーがしなった。


「それ中身なに?」

「知らずに持ってたのかよ」

「うん」

「まだ見てない。先見るか?」

「見たくない。それ燃やしたい」

「ここ。隣座れ」


コウが、座っている横をぽんと叩いて場所を示す。指示された通り、そこに腰を下ろした。真剣そのものの顔に、怯みそうになる。


逃げない。


泣かない。



「辛かったな」

「…うん、辛かった。言えなくて、怖くて」


膝の上に置いていた手に、大きな手が触れる。手の甲をそっと包むそれが、温かい。
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