俺様とネコ女
「お前、会社を辞めることに後悔はないか?」

「コウは仕事人間だから、こんな無責任な人間嫌いだよね?呆れるよね」

「いや、俺が辞めさせるようなもんだから。これでも、お前の将来とか、いろいろ悩んだんだ」

「私だって。悩んで悩んで、いろんなものを天秤にかけたけど、結局どう考えても一番はコウといることだった。コウは別れようと思った?」

「いや」


あの辛かった日々を思い出し、顔に出たんだと思う。フォローするように、コウが言葉を続ける。


「お前は?あそこまで病んで」

「思い出すのもつらい」


コウの言う通り、別れ話を切り出されると怯えていた。まさか結婚という決断をしてくれるなんて、夢にも思わなかった。

スマホを取り出したコウが、カレンダーアプリを開く。私がのぞき込むと、見えやすい角度に傾けてくれた。


「うわ、忙しい人だね」

マンスリータイプのそこには、すでに予定がびっしり入力済みで、空欄の日が1日もない。


「急な異動だから何もかも短期間でしないといけない。これにプラスして送別会も入ってくる。1課だけじゃなくて、営業部単位でもある。あと同期とクライアントと…」


コウはスマホの画面に見入ったまま、カルパッチョをつまむ。
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