俺様とネコ女
「すみません。この子今日失恋して荒れてて、」

「こらやめなよ」と私を制した美咲に、イケメンAが「いいよ」と微笑む。

「君たち大学生?」

「あと数日で社会人です」


美咲がニコニコと受け答える。私はその会話を他人事のように聞きながら、イケメンBに釘付けだった。

私の視線に気付いたBは、僅かに顔をこちらに向けた。目が合ってすぐ逸らされた目線。からの、2度見。なぜかその視線はすぐ戻ってきたのだ。


「でもほんとかわいいよね。モテるでしょ」

否定はしない。自分の容姿が恵まれていることは把握している。そしてそれは、メリットでありデメリットであることを、今までの人生から学んだ。

この手の男性の対応は慣れている。ニコリと微笑む。それだけでいい。


「俺は直哉。こっちはコウ」

イケメンA改め直哉。イケメンB改めコウ。コウ、か。


「私はこころ。これは美咲」

人差し指でクルクルと円を描くように美咲を指差す。

「これって、」と、やっと、やっとコウの声を聞いた。

それは顔の印象とピッタリ合致して、魅力的な低音で、明瞭で深みのある声だった。
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