俺様とネコ女
「どけ、」

短い言葉で私をどかせて洗面所に入っていった。別れのときが目前に迫っているのは明白で。

殺風景な部屋で一人ソファーに身を埋め、マイナス思考に飲み込まれそうになっていた。


洗面所から出てきたコウは、私の隣に腰を下ろした。不安な気持ちを悟られないように、明るく振る舞おう。


「ね、ID教えて?」

無言で私を見つめる瞳は、感情が見えない。よく考えたら、フルネームも知らない。昨日は年齢だって教えてくれなかった。

わたしは気持ちがないとセックスできないけど、コウにしたら、いつものワンナイトの遊びだったのかもしれない。

酔っ払って帰れなくなった私を泊めて、その代償を「体で払え」って、そういうことなのかもしれない。

どうしよう。そんなの耐えられない。

もう、会えないのかな。また会いたいって、思ってくれてないのかな。


これきりなんて、絶対嫌だ。
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