俺様とネコ女
山本主任は鞄をデスクに放り投げ、ギギギと音を鳴らし椅子に座ったまま近付いてくる。残念ながら、隣のデスクだ。

「出会いの春だなおい。楽しくなってきた」

「そうですね。楽しそうですね」

「一目惚れしたらどうしよう。なあ。どうする?」

「どうするって、どうもしないでしょ」


お前はつまらん男だとぼやく主任。仕事をしろ。仕事を。


今日訪問予定の企業の提案書をUSBに保存する。仕事をさせてくれ。と暗に示したつもりだが。

「なあ。俺の今日のネクタイどうだ?」

胸を張り、えんじ色のネクタイの結び目を締めながら問われる。鬱陶しいにもほどがある。

「いいんじゃないすか?」

どうでも。と言いたかったが、それは我慢した。


結局この日の退社は22時をまわっていた。残業はしたくないが、仕事が終わらないから仕方ない。忙しさを言い訳に、絶対仕事の手は抜きたくない。


帰りに主任と晩飯を食って家に帰る。ビールを飲みながらニュースを見て、風呂に入ったら寝るだけだ。

あっという間に朝が来て、出勤して・・・最近は毎日がこれの繰り返しだ。単調な生活だけれど、何不自由ない自由気ままな独身生活を送っている。
< 61 / 337 >

この作品をシェア

pagetop