秘めた恋

賢斗は、私の方を一瞥した後、すぐ副社長に向かって「承知しました。」というと
みんなの前で話し始めた。

「妹は今大学で中国語を習っているんですが
俺が久々に実家に戻るとちょうど妹が発音の練習をしていて
『花好看（hua hao kan）」』と言ったんです。
どういう意味かと尋ねると「花が可愛い」と言った時に
俺はピンっと思いついたのです。」

「『花』はトリアーデを組んでる。」

「トリアーデ？」副社長の隣に立っていた森さんがそう呟くと
「正反合のことだ。」と私の隣にいる古橋くんが応えた。

「正反合？」森さんが応えると
「説明を続けます。」と賢斗が彼女の質問を遮断した。

「蕾（正）⇒花（反）⇒実（合）。植物は大抵蕾から花になり実となる。
さまざまな形になり、それぞれが別物だがそれでも『花』なのです。」と賢斗が言うと

「つまり『蕾』としてずっと『蕾』のままでいるとその存在理由がなくなる。『花』になることが、自分を否定することによってはじめて『蕾』としての存在理由がある。そういった内在的矛盾を揚棄して『花』となる。
ま、ヘーゲルの例えとしてはこんなものか」と副社長が説明したが
森さんは更に訳が分からないというような顔をしていた。

「女性も２０代前半までは蕾だ。俺としてはアラサー世代から花を開花させ、
３５以上からは熟した果実になると思っている。」と賢斗は少し卑猥な言い方をした後、

「妹にデザイン画を考えてもらい、俺がhuaの深い意味、つまり花と女性を
トリアーデと結びつけた。」と続けた。

なんか、私が考えたhuaよりも意味が超越してる気がして
びっくりして声が出なかった。