秘めた恋
読みたいと思っていた本を見つけた。

エーリッヒフロム著の「自由からの逃走」
人は自由を与えられると無力感、孤独感に苛まれるため
人は自由からの逃走をはかりたくなる。
確かそんな内容だった。

人はシニシズムのように、不平不満を言ったとしても
自ら行動を起こそうとはしない、なぜなのか。
人は皆、孤立を恐れている。

私にはまだ良く分からないけど一度読んでみたかったため、
自分の身長よりも高い位置にあるその本を取ろうとした。
背伸びをし、バランスをくずさないよう本棚に掴まりながら
思いっきり右手を伸ばす。

そんな時、いとも簡単にひょいっと誰かの手がその本を棚から引き抜く。

え?

その方を見て思わず絶句する。

彼は、暫くその本をパラパラと捲ると本の一説を読み始めた。
「私はサディズムとマゾヒズムのどちらの根底にもみられるこの目的を共棲と
呼ぶことにしたい。心理学的意味における共棲とは自己と他人と、
お互いに自己自身の統一性を失い、おたがいに完全に依存しあうように
一体化することを意味する。」

彼は、はぁとため息をつくと本を片手で持ち上げ
「霧島さんってこんなのに興味があるの?」と
感心しているような、それでいて訝しげに思っているような目で
少し口角を上げながら古橋君が言ってきた。

な、なんで彼がここに・・・。

そう思うも声が出ない。

「『霧島 美優』本の貸し出し承りました。」

そして彼はまた付け加えるように「あー俺、今月から図書委員の役割で
本の貸し出しの受付をやるようになったから。」と言うと
こんな私にも軽くはにかんで見せた。


「えええええええええ」

と捻出して出した自分の声が色気のない驚きの声だった。
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