秘めた恋
困った顔も素敵だな。”仕事”というワードが彼の口から出ると
大人の男性という感じがして少しときめいた。

「どこに就職したんでしたっけ?」

「IT企業。SEの仕事をしてる。」

「そうなんですね。」

その後も彼とは仕事の話やサークルの話をして
会話が盛り上がった。

営業で客と会うことがほとんどない彼は
無精ひげを生やしていてそれが一層大人の色気を醸し出していた。

「ごめん、食べた後吸いたくなるんだよな。」と言って
手馴れた手つきでタバコを取り出し吸い始めた。

目を細め、タバコをくわえる姿はもう様になってて
わざと私に見せつけてドキドキさせてるんじゃないかって思うくらい。

それくらい星野先輩は格好良くて。
私は気にしないふりをして目をそらした。

「あ、そうだ。今度また会わない?」

軽い感じで先輩が聞いてきたので私もあえて何も考えず
「あ、はい、そうですね。」と応えた。

先輩は、少し嬉しそうな表情を滲ませると名刺と万年筆を取り出した。

どうやら名刺に自分の携帯番号とアドレスを書いているようだった。

「その万年筆・・・・」

「え?」

彼が手の動きを止めて上目遣いで私を見てきた。

「あ、の、木製なんですか?」と聞くと

「あぁ。そうそう、檜で出来てる。だから、時々檜の香りもして癒されるんだよ。
しかもペン先がプラチナだから柔らかくて書きやすく手に負荷がかからない。
東郷社の万年筆ってこれだから良いよな。」と彼が応えた。

「東郷社・・・。」

なんだろう、東郷って聞いて、彼かと思って一瞬どきっとした。
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