秘めた恋
1914年、創業。ニーズを超えた品質と喜びを追求し楽しく仕事を行うことを企業理念とし、
東郷雅彦氏が『東郷㈱』を設立した。後に『極』という木を使った高級ブランドの万年筆を
出品することで爆発的にヒットし、世に東郷社の名を轟かせた。今や総合商社と並ぶ大企業にまで成長し、
東証一部上場。

現社長は隠居状態で、ほとんどの仕事を自分の息子の副社長に任せている。
今年で100周年ということもありその副社長の考案で新製品開発のプロジェクトが立ち上がったとのこと。

「はぁ、なんかすごいですね。」

まさか、こんな大きなプロジェクトに自分が関わるとは思ってもみなかった。

高級万年筆『極(kiwami)』は私でも知っていた。
就職祝いとして親が子供にプレゼントをしたり、稼ぎの良い成人男性が自分のプライドを誇示するために
持ち歩く物と聞いたことがある。

「ちなみにその木をベースにした高品質な万年筆を考案なさったのが副社長なのよ!」

「へ~、すごいですね。副社長!まだ若いんですか?」

「まだ、34よ!しかもね、超イケメン、超セレブだから彼が通るたびに女性陣がキャーキャーしちゃって
うるさいのなんのって。この前なんて秘書が不在のときに誰が副社長のお茶を注ぐかで喧嘩したりして
幼稚園児かって思ったわよ。」

「へ~、すごいですね。」
ミーハーでもない私は軽く感心をするだけに留めた。
このとき、私の中では別の男性に興味を抱いていたのもあったから。

「東郷 和馬副社長!あなたも彼に会ったらそんな冷静にはいられないわよ。」と言って水木さんに
どや顔でウインクをされた。

思わず、「あはは、そうですか。」と失笑してしまった。

「あ、そうそう。言い忘れたことあったんだけどね。」と彼女は手を叩くと

「デザイングループの高梨さんとプロジェクトリーダーの杉並さんは出来てるらしいわよ。」と
耳元で囁いた。

「え?」

「美男美女のカップルよねぇ。もう、バレバレだから公開すれば良いのに。」

「そうだったんですね・・・。」

私は先ほどの古橋さんのそっけない態度を思い出した。

「高梨さんは、まさしく誰もが憧れるキャリウーマンよ!業務態度は真面目、おまけに美人ときた。
まぁ、コネ入社と噂されてるけどね。」

「へぇ、そうですか。」

確かに素敵な女性だった。

「たぶん、歳も森さんと同じ位じゃないかしら?」

「えーーーー!?」

同じ歳なのに、彼女は綺麗でオトナでバリバリのキャリアウーマン。
それに比べ私は、平凡な田舎娘。どうしてこうも差があるんだろう。
どうしたら彼女みたいになれるのかな・・・


エレベーターホール近くにある大きな窓に近づくと、オフィスビルが聳え立つ街全体を一望できた。
ビルの真下を見ると噴水やオブジェのある広場を忙しなく歩く高梨さんと杉並さんが目に入った。





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