秘めた恋
「誰のおかげでこの会社に入れたと思ってんだよ。」

賢斗は怖い顔でそう言うと私を壁際に追い込み、抵抗できなくすると
無理やりキスをしてきた。

「い、いや!!」

すると彼は右手で私の胸を弄り始めた。

キスをされてるから、やめてという声がかき消される。

こんなとこ誰かに見られたら・・・そう思った瞬間、
誰かが「あのー・・・・」と声をかけてきた。

私はその声を聞いてハッとした。
我に返った賢斗が声のする方を見ると
「古橋・・・・」と声を発した。

「あの、誤解されてます。俺たちそんな関係ではないんで。
先日、高梨さんがつまづいたので俺が支えただけです。」
そう淡々と応える彼に賢斗が呆然としながら

「お取り込み中失礼しました。」そう言って彼が踵を返そうとしたとき
「おい、待てよ。」と賢斗が彼を引き止めた。

「たばこ吸わないお前がここまで来るのはおかしいだろ。
俺に話でもあったか?」そう賢斗が尋ねると
「あぁ、そうでした。副社長がお呼びです。」と応えた。

それを早く言えよと言うと「また、進捗状況の報告か。」とつぶやいたので
「私、デザイン画出来たの!それを見せたくて。」と私は思い出したように応えた。

彼は、私のスケッチノートをひったくると「分かった。行ってくる。」と言って
古橋君の横を通り過ぎ去ってしまった。

ここには私と古橋君が残りきまずい沈黙が流れた。
こんなところ見られるなんて。一番見られたくない人に見られた。
私は恥ずかしさと居たたまれない気持ちを抑えるために俯いた。

古橋君もすぐどこかへ行くと思ったのに彼はゆっくりと私に近づいてきた。
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