秘めた恋
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古橋君は近づくと私の隣に立ち、右肩を壁につけ腕を組みながら
寄っかかるようにして私の方を見た。

私は気まずさで一瞬顔を背けたが
「じゃぁ、私も用は済んだから行くね。」と彼を見上げてそう言うと
彼に背を向けた。

だけど後ろから彼に手首をつかまれ、私の足は止まった。

「仕事中にああいうことするなんて霧島さんも大胆になったよな。」

霧島? 突然旧姓の方を言われフリーズしていると
「そんなに男にモテたいか。」と言われた。

「何を言ってるの?」思わず彼の方を振り返り睨むと
彼は嘲るように「昔っからそうだったもんな。」と言ってきた。

昔から? 一体なんのことを言ってるんだろう。
一度だって男にモテたいとか思ったことない。
いつだって私は大樹君にだけ想われていればそれでよかった。

私は目の奥が熱くなるのを我慢し、毅然とした態度でいたものの
口からは思わぬ言葉が出てしまった。

「あなたこそどうなのよ。モテるから大人しくてダサい女より
みんなに人気のある可愛い女性に乗り換えたじゃない。」

「なんなのよ、あなたの方が最低じゃない。
私はずっと好きだったのに。」

「嘘つけよ!!!」

そう怒鳴られて私は体が一瞬びくっとなった。

「みんなの前で名前で呼ぼうとしたら嫌がるし、
なんで付き合ってること秘密にしたがるんだよ!」

「それは・・・」

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