桜ノ少女 完
ぽつりと少女は呟きました。今にも消え入ってしまいそうに、儚い声でありました。しかしその声からは凛とした響きが感ぜられ、彼女の強い芯を表すようなものでした。
けれど勿論、桜の花は赤くなどありません。白く滑らかな頬にほんのりと頬紅を乗せたかのように、無垢な色をしています。それでも、気位の高い猫を連想させる、彼女の大きく潤んだ瞳には、禍々しい濃紅の色に見えるのでした。
少女は、満開の桜の花が嫌いです。大きく枝を広げ咲き誇る花は幽玄的で、美しさと共に、足元から這い上がってくるような得体の知れぬ恐怖を覚えるからです。それよりかはいっそ、花が全て潔く散り果てた後の葉桜の方が、彼女にとって余程好ましく思えるのでした。
彼女はそんな空恐ろしい花から、視線を地面に移します。彼女の立つそこは、まるで絨毯のように淡い色をした花弁が、所狭しとひしめいておりました。少女は酷く無感情な目でそれを見ます。やはりそれら花弁も、彼女には赤く見えてなりません。
「桜の木の下には、死体が埋められている」
囁くように、しかし先程よりずっとはっきりとした調子で少女はそう唱えました。ざわり、風の表情が一変します。花をたくさん抱える重たげな枝が揺れ、警告するように鳴きました。花弁の雨は一段と激しさを増し、狂おしいくらいに降り続けます。
少女はそんな桜の声に臆することなく、しっかりと地面を見つめました。まるで、地面を透かし、その下に埋められた死体を見つけようとするかのように。