一秒の確信
もう少し、あと少しで麻子に会える。
けれど、麻子の調子が何だかおかしい。

いつもの様に僕は自宅の電話の子機から麻子に電話をする。
麻子は電話に出なかった。
それを僕は余りにも、まるで子供が母親の帰りを待つ様な感情で不安がった。

何度も鳴らしたが、麻子は電話に出なかった。
何回コールしたのかも解らない、けれど、麻子はいずれ出た。

楓「…一体何してたの?」

麻子「…御免ね楓君。」

中学校三年の僕にはとても難しい発言だった。

麻子「あたし…あたし電話切るね。」

楓「ちょっと…待ってよ。一体どうしちゃったの?」

麻子「あのね楓君。あたしが不調な時は楓君と話せない。」

楓「どうして?…ねぇどうして?」

麻子「楓君を傷付けたくないから。」

楓「俺は傷付かない!だから話して。」

麻子「…それは…出来ないの。…今でも楓君を想ってる。あたしの心の中にはいつも楓君が存在してる。なのに駄目なの。」

とても解りにくかった。
問いかけていいのかすら。
だけど…

楓「不安だった。ずっと電話に出てくれないから。」

麻子は言った。

麻子「寂しくさせて御免ね。あなたがとても可愛いから、あたしは楓君を傷付けてしまう。それはあたしの弱さでもあるんだ。…楓君が、タイミング良く『こんな時に』電話くれちゃう。楓君が優しいから、あたしは甘えてしまう。可愛いのはあなただけで充分なんだ。あたしには。」

解らなかった。

楓「麻子も俺に甘えてもいいんだよ。」

麻子「…いや…充分にあたしは楓君に甘えてる。」

…甘えてる?
どっからどう見ても、僕には、麻子から甘えられているなんて思わなかった。

楓「全然甘えてない、麻子はいっつも気を張っている。」

麻子「違うの。あたしの我儘なの。御免ね。許して。あたしが調子の良い時は、ちゃんと知らせるから。だから…こんな時は楓君にヤツ当たりしたり、冷たくあしらったりしてしまう。そんなの楓君には見せられない。楓君はとっても綺麗な心を持っている。あたしは、楓君が思うような女じゃない。」

麻子の言葉の意味が全然解読出来なかった。
彼女の口調が荒れていたのは確かに傷付いた。
けれど僕には、麻子が居ない生活がどんなだったのかも忘れてしまいそうになる位、繋がっていないと壊れてしまいそうだった。

楓「傷付けても、何でもいい。だから、いきなり連絡が取れなくなったりするのだけはやめて。お願い麻子…」

麻子は少し溜息をついたけど笑った。

麻子「やっぱり楓君は可愛いね。…あたしが必要?なんてね。」

楓「…必要だ!!寂しくて、ずっとコール鳴らした!」

麻子「御免ね楓君。可愛い。好きよ楓君。御免ね、弱くて…。」


一日の変化が早くて、冬休み、本当に会えるのか不安になった。
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