彼方の蒼
8.特別な光
◇ ◇ ◇
「学校出てすぐの家じゃなかったっけ?」
何気ないひとことで僕は墓穴を掘ったらしい。
じゃあ春都行けよ、とどこからともなく声が上がった。
ここ三、四日、クラス委員こと井上健一郎が無断欠席をしていた。
理由はみんなが知っている。
推薦入試前日あたりから彼はインフルエンザにかかり、試験が受けられなかったんだ。
それを苦にして、完治してもそのまま欠席を続けているらしかった。
気持ちの整理がつかないんだろうな、とひそひそと声が聞こえるのもしばしばで、気の毒に思う気配は教室内に広がりつつあった。
「最近仲いいじゃんおまえら」
と別の方向からも声が聞こえて、違うと否定したところで誰が信じてくれるだろう。
完全に、僕が行くしかない雰囲気になった。
もう放課後で、真っ直ぐ家に帰るつもりだったのに、今日はついてない日だ。
給食の残りのパンを携え、僕にとっての対委員長的守護神カンちゃんを連れて、井上家を訪ねた。
「お邪魔しまーす」
「は。な、なんの真似だよ」
委員長はジャージ姿で面食らっている。
その右と左をカンちゃんと僕で同時に通り抜け、家に上がりこんだ。
はいこれ、とコッペパンを差し出すと、間髪入れずに問い返された。
「プリンとかは」
「ねーよ」
絶対人選間違ってるだろ、とカンちゃんはぼやくと、委員長そっちのけで階段をのぼりはじめる。
僕に至ってはカンちゃんのとき以来、今月二度目のお見舞いだ。
月に二回って多いよな。そういう運気なんですかね?
「おい、勝手に行くな」
「おまえの部屋、こっちであってんだろ。親の寝室とか覗く趣味ねーから、やばいと思うなら先行けよ」
「なんて図々しいヤツなんだ。お邪魔しますくらい言ったらどうだ」
「言ったよ、なあハル?」
委員長の部屋はドアが開きっぱなしになっていたからすぐにわかった。
想像よりも少し散らかっていて、委員長も生活している人間なんだなと妙なことを思っているうちに、お茶が運ばれてきた。
といっても、運んだのは委員長だ。
緑茶三つの乗ったお盆をカーペットに置いて、飲めよとつっけんどんに言った。