彼方の蒼
「誰だって落ちたらショックだよな」
その帰り道、カンちゃんは珍しく委員長の肩を持つようなことを言った。
「本命だめで平気なヤツなんて、いんのかよ」
そうだね。
“おまえに俺の気持ちがわかってたまるか”
委員長は僕だけを向いて言った。
カンちゃんには言ったつもりはなかったんだ。
カンちゃんも、推薦入試を受けられなかったという意味では同じ立場だったから。
「僕もああまでカッコつけた手前、もう親の離婚のことでいじけられなくなったよ」
「っていうかさ、ハルはまず受験勉強だろ」
「ん」
もっとも、倉井先生の行動は僕たちよりも早かった。
すぐさま井上家で委員長本人とご両親とで話し合いをし、僕らが見舞ったあの時点で委員長の出願書類をすでに揃えていたんだとか。
「先生が先生にみえる」
「私はいつでも先生ですよ」
微かな笑顔で倉井先生は僕を一瞥し、素っ気なく職員室へ入っていく。
僕はその後ろ姿を見送るだけだ。
卒業まで二週間を切っていた。