彼方の蒼

   ◇   ◇   ◇

 受験会場の高遠高校には、受験をする生徒に混ざって2組の担任の姿があった。
 正門に着いたところで他校に行っているはずのカンちゃんにメールを送ると、折り返しで電話がかかってきた。

 カンちゃんはおはようじゃなく、ビンゴと言った。
 えっと、それはどこの国の朝の挨拶?

『だからあ、ビンゴだよ。こっちの引率、倉井先生だ。電話、代わるな?』
 急な申し出に、柄にもなくどぎまぎする。

『おはようございます』

「おはよう、先生」

 こういうの、やってみると照れくさい。特別な日だからって電話で声が聞けるとか、やってて恥ずかしい。

『昨日はしっかり眠れましたか』

「あ、はい。それは」

『普段通りにやれば大丈夫』

 喜びが広がっていく。倉井先生が僕のことを考えてくれている。
 ありがとうと言いたいけれど、まだ早い気がした。合格してから伝えたい。
 代わりに、自分にできることをして倉井先生の役に立とうと思った。

『惣山くん?』

 ほら、名前も呼んでもらえたし、充分だ。

「先生。電話、クラスのヤツに代わってもいい? 不安そうなのがちいらほらいるからさ。先生の声が聞けたら、少しは落ち着くと思うんだ」

 僕は近くにいたマッキイに携帯を差し出した。

「やる」
「誰?」
「倉井先生」
「えっ? あ、先生! 先生ですか!?」

 横にいる内山の視線を感じて、なにを言われるかと身構えていると、
「次、代わってもいい?」
「どうぞどうぞ」
 
 やりとりに気づいた生徒が続々と寄ってくる。
 誰? 倉井先生? いいなあ、なんて声が聞こえる。
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