彼方の蒼
今にして思えば、ただの自意識過剰って気もする。
はるとなんてよくある名前だ。
百人いたらひとりかふたりいてもおかしくない。
急に恥ずかしくなってきて、ほら、と言葉を重ねる。
「卒業生のあいだでも気にする人は多かったみたいなんだ。どういうつもりなんだって、直接先生に問いただす気満々の女子もいたらしくて。やめろって、僕が先生に聞くまでそういうことしないでってカンちゃんを介して伝えたら、そのときはみんなどうにか心の内に収めてくれたんだ。そういう経緯もあって、まえから聞きたかった」
テーブルの上で組んだ指先がそわそわしだした。
僕はなんて答えてほしいと思ってる?
関係ある? 無関係?
ただの偶然なら、それはそれで淋しい。
もっとも、先生が嘘をつくことだって考えられるわけで――。
「素敵な名前だと思ったからです。あの中学で惣山くんが呼ばれるたびに、いつも思っていました。男の子が生まれるならはるとにしようって」
まさか。まさか。
ど直球な回答が返ってきた。
ごまかすことだってできるはず。
なのに先生は僕を前にしても平然と言い放った。
僕の名前と同じ発音を聞かされて、僕の顔はひとりでに熱くなる。
僕のことじゃないのに!
でも、嫌じゃなかった。
たとえ名前であっても、僕の一部が先生に好かれていた。
今すぐ駆け出していきたいくらいに嬉しい事実だった。