彼方の蒼
「ずるいなあ」
 駆け出す代わりに僕は笑い出していた。
「面と向かってそんなふうに言われちゃ、もうなんにも言えない。わかるよ。先生の言いたいこと。いいと思ったからそうしたって」

 気弱そうにみえて、やりたいように生きる人。
 欲しいものは手に入れる人。
 心の揺らぎの忠実さが絵にも表れている。

「でもさ、その理由は他の人たちには言えないよね」
 常識やモラルの欠如と言われかねない。
 それは先生のほうが重々承知していたようで、
「黙っとくよ」 
と一応言った僕に、そうしてください、と深々と首を垂れた。
 そうしてふと時計を見あげた。
 そろそろお迎えの時間のはずだった。

「行ってらっしゃい」
 僕は先生に手を振って送りだした。
 コーヒー飲んだらおいとまします、と言い添えて。

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