彼方の蒼
3.静かなる才媛
 翌朝、母さんと僕は寝坊した。
 母さんはいいけど、僕は学校がある。
 ワイドショーも終わっている――こんな時間までよく寝ていたものだ、とあきれるやら感心するやら。

 飯を食ったあと(うちは朝はパン派)歯みがきしながら新聞を取りにいき、戻ろうとして、足を止めた。
 確か母さん、新しい表札がどうのこうの言ってたよな。
 僕は門の表札を見た。
 そこには――。


「えっ『そりゃまあ』!?」
 いやいやいやいや! 
 ありえないです倉井先生。いくらなんでもそんな姓は。
「ソウヤマ、です。先生」
 僕の母さんは、笑いもせずに告げた。
 ――名字が変わった報告がてら、母といっしょに午後から登校したんだ。
 教務室で昨夜の騒動のお詫びをしたあと、昨日の夕方僕に報告したときと同じくらい冷静な顔した母が、なんでもないことのように離婚について話した。

 惣山春都――今日からの僕の名前だ。
 ソウヤマソウヤマ……渡辺とどっちがいいんだろ。
 あ、名簿順が変わる。
 そうすると、卒業証書授与もいちばん最後じゃなくなる――確かあれって、はじめと終わりの人だけ、あっちこっちに礼しなくちゃいけなかった気がする。
 そうすると、式のときは呼ばれたら起立して返事をするだけ、か。
 味気ないような、楽できていいような……やっぱ残念だな。
 僕は僕なのに。
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