彼方の蒼

 合格安全圏だとか、志望校が絞りきれないとか、それぞれの立ってる位置には関係なく、誰しも悩みはあるもので、堀芝サンも例外ではなかった。

「お茶飲んでいこうよ!」
 堀芝サンとカンちゃんと僕の3人で、学校帰りに寄り道をした。
 明るく誘った堀芝サンが案内してくれたのは、甘味処だった。『しろいとり』という名の、15人くらいしか入れない、小さな店。なるほど、なかは白い鳥の置き物でいっぱいだった。
 雰囲気は、和風。僕の表現力の乏しさのせいじゃなく、明かりとか、テーブルとか、なんとなく居酒屋めいているっていうか、薄暗いというか。
 穴場には違いなかった。お客は僕とカンちゃん以外、全員女の人。

 僕とカンちゃんは、はっきりいって浮いていた。でも、居心地が悪いとは、少なくとも僕は思わなかった。
 手を伸ばせば届く距離にいる、たくさんの鳥。
 ピアノ曲が流れている。

 カンちゃんも僕もはじめての場所だから、堀芝サンにならってクリームあんみつをたのんだ。
 窓際にずらずらっと並んでいる鳥を、顔を近づけて見ていたら、カンちゃんに言われた。
「ハル、せまい。お前、堀芝の隣にいけよ」
 ってなわけで、席移動。僕のせいじゃなく、お店が狭いんだ。それに、カンちゃんがでかすぎなんだ。
 左隣の堀芝サンが少しだけ緊張したふうにみえたけど、たぶん僕の気のせいだろう。

 頼んだものがきた(もう名前忘れた)。
 白玉なんか食うの、すごい久しぶり。
 みかん以外のくだもの食うのも、しばらくぶりだ。
 ビタミン不足かもしれない。
 スーパーでりんごでも買って帰ろう。

 3人して、欠食児童みたいに、食べることに専念した。その間、会話ナシ。
 適度に暖房が効いているから、のんびりしてるとアイスクリームが溶ける。
 おー、寒天が固くておいしい。

 それぞれの器が空になると、堀芝サンが言った。
「あのね、ちょっと話したいことがあるんだ」
 意を決したような物言いで、僕まで背筋がぴっとなった。

 堀芝サンは、私立の女子高への推薦入学が決まっている。ミッション系のお嬢様学校。
この街から遠いので、寮に入るということだった。僕らの中学からその学校へ進学するのは、堀芝サンだけ。
「だから、せいちゃんやマッキイとも離ればなれになるんだ」
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