彼方の蒼
堀芝サンは内山(せいちゃん)とマッキイとつるんでいる。
内山もマッキイも、優秀という感じじゃない……よく知らないけど。
どっちかといえば、僕はマッキイと縁がある。
マッキイの名字が『若田』だから、僕は『渡辺』姓時代に席が隣になったり、日直やったりした。
そういや内山もマッキイも、放課後はさっさと帰っているような……。
カンちゃんも僕と同じことを考えていたらしい。僕より一歩進んだかたちで、堀芝サンに聞いた。
「ケンカでもしたわけ? それともあいつら、塾でも行ってんの? 移動教室のときも、あいつら堀芝を避けてるよな」
「そう。わたし避けられてる」
堀芝サンははっきりとそう言い、カンちゃん、それから僕を見た。続けた。
「せいちゃんとマッキイは同じ学校に行くんだ。高遠高校だから、そーやまくんといっしょだね」
――受かればね。
「せいちゃんもマッキイも、ふたりともなんか、ナーバスになっちゃってて……わたしに言わせれば、ナーバス以外のなんでもないんだけど、なんか……わたしが言うたびに、っていうか、なに言っても癇に障るみたいな……うまく言えないんだけど!」
堀芝サンはつっかえつっかえそう言い、熱いほうじ茶をひとくち飲んだ。
「勉強が思うようにいっていないのかもしれないし、いくらやっても不安なのかもしれない。わたしだってそういう気持ちわかるし……でも『わかる』って言ったら、ひがまれた、っていうか……そうこうしているうちに、なんかふたりともよそよそしくなって……」
教室での様子を思い出そうとしたけど、うまくいかなかった。
僕は、どこのグループがケンカしているとか、うるさいとか、もともと無頓着なほうだ。堀芝サンの話を元に、頭のなかでそのシーンが作られていく感じになってしまう。
3年1組が誇るピアニスト·内山星子。
ちっちゃくてねずみみたいにおちつきがない、若田真紀。
それから、静かなる才媛·堀芝今日子。
「わたしだけもう進路が決まっているんだから、アルバム編集委員のことじゃないけど、余裕があるぶん、もっと本当はいろんなことを受けとめてあげなくちゃいけないのかもしれない。困っているふたりと同じ場所で、いっしょに苦しむべきなのかもしれない。それができないわたしがものすごく冷たい人間みたいに思えてきて……今だって……」
僕は堀芝サンが泣くんじゃないかと思った。