彼方の蒼
 僕らの後押しがほしかったんじゃなくて?
 違うの? 堀芝サン。
 あの、僕は今、混乱しています。

「わたしの気持ちを誰でもいいから知っといてほしかった。せいちゃんたちには内緒でいいんだ。だってわたしはこれからもこのままでいくから」
 そう言うと堀芝サンは打って変わって、ひひひと笑った。
「『あと2ヶ月しかいっしょにいられない』なんて思わない。ぎりぎりまでいっしょにいて、これからずっと友達でいつづけてやる! せいちゃんたちは、なにかにつけて、別れだなんだと悲劇にしちゃうんだよ。やんなっちゃうよー。わたしの決意も知らないでさ!」

「そりゃあ……知らないだろう、ふつう」
 僕はつい吹きだしてしまった。
 堀芝サンがこっちを向いた。
「笑いごとじゃないよー」
「友情の危機なんだよな」
「そだよ」

 かしこまったふうに頷く堀芝サン。危機も問題も、堀芝サンにかかればなんてことはない――そうまわりから思われるのは、やっぱりプレッシャーなんだろうな。
 でなきゃ、僕やカンちゃんに言ったりするもんか。
 
「ほかにもまだあるだろ」
 ふいにカンちゃんが言った。
「女子ならではのもめごとがあったんだろ。違うか?」
 なぜ僕を見てそういうことを言うんですかー?
 僕は堀芝サンたち3人の友情にヒビ入れるようなことはなにも……していないとはいえないな。
 放課後、堀芝サンを独占しているもんな。
 僕のせいだけじゃなく、カンちゃんにも責任があるんだけど。

 カンちゃんも僕も、堀芝サンの言葉を待った。 堀芝サンは言いにくそうだった。
「言えない。……約束だから」
 それしか言わなかった。

 僕だって、そんなにしゃべったことのない女子から、
「誰にも言っちゃだめだからね」
という前置きのもと、誰々さんがなんとか君を好きなんだってー、というたぐいの噂を聞かされたことがある。
『誰にも言わない』なんて約束を守る女子、初めて見たかも。
 律儀だな、堀芝サンは。

「まあ、だいたい想像つく」
 カンちゃんは笑った。僕もつられてかすかに笑った。笑いながら、考えた。
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