彼方の蒼
やっぱり、誰かが誰かを好きとか、そういう話なんだろうか。
僕の想像はその程度だし、よくある女子の秘密もその程度。
倉井先生と寝たっていう僕の秘密は、カンちゃんさえ知らないけれど。
「このくらいのことは答えられるよな。……おれじゃないほうだろ?」
「わたしじゃないからね」
「堀芝って面食いだもんな」
「小柳くんには負けるけど」
「おれはハルほどじゃない」
「じゃあそーやまくんがいちばん、ってことで」
「頭のいいモノ同士で盛りあがるなよ!」
僕が割りこんだら、堀芝サンが僕のほうに向き直った。
「そーやまくん」
改まって、頭を垂れる。
「ありがとね。わたし、これでもけっこう感謝してるんだ。あっ、小柳くんも」
カンちゃんは皮肉っぽく口を歪めた。
「つけたさなくていい」
「本当だもん。……けどもうそれも、今日で終わりにする。わたしはマッキイとせいちゃんとの友情復活キャンペーン期間に入ります。勉強会はおしまい。勝手でごめん。あとは小柳くんにまかせる」
もともとそんなに仲良くしていたわけでもない僕に、堀芝サンはずいぶんとよくしてくれた。
はっきりと成績向上をみせられないのが残念だけど、僕が高遠に合格すればいいんだ。
あとはこっちでなんとかする――なんとかしなきゃ、いけない。
「うん。……堀芝サンも、そろそろ自分のことをやったほうがいいよ。なんか心配になってきた」
「おう。悪かったな、堀芝もたいへんなのに」
堀芝サンは気にしないでといった様子で笑顔を見せた。
その表情がふいに崩れた。勢いよく下を向いた。
……腕時計を確認した。
伝票をつかんで席を立った。
「さて、っと。わたしもう行くね。ありがとね。変な話しちゃってごめんね。忘れちゃっていいよ。いいから。じゃ!」
止める間もないくらいの早口でそう言い、会計を済ませて、堀芝サンはひらりとドアをくぐって行ってしまった。――僕たちと目を合わせることもなく。
僕は、握手で伝えたいくらいの感謝をそっけない言葉でしか言い表わせなかった。
堀芝サンは、ぎりぎりまでいつもの顔をしていた。
カンちゃんは、なにも見なかったフリをした。
僕の想像はその程度だし、よくある女子の秘密もその程度。
倉井先生と寝たっていう僕の秘密は、カンちゃんさえ知らないけれど。
「このくらいのことは答えられるよな。……おれじゃないほうだろ?」
「わたしじゃないからね」
「堀芝って面食いだもんな」
「小柳くんには負けるけど」
「おれはハルほどじゃない」
「じゃあそーやまくんがいちばん、ってことで」
「頭のいいモノ同士で盛りあがるなよ!」
僕が割りこんだら、堀芝サンが僕のほうに向き直った。
「そーやまくん」
改まって、頭を垂れる。
「ありがとね。わたし、これでもけっこう感謝してるんだ。あっ、小柳くんも」
カンちゃんは皮肉っぽく口を歪めた。
「つけたさなくていい」
「本当だもん。……けどもうそれも、今日で終わりにする。わたしはマッキイとせいちゃんとの友情復活キャンペーン期間に入ります。勉強会はおしまい。勝手でごめん。あとは小柳くんにまかせる」
もともとそんなに仲良くしていたわけでもない僕に、堀芝サンはずいぶんとよくしてくれた。
はっきりと成績向上をみせられないのが残念だけど、僕が高遠に合格すればいいんだ。
あとはこっちでなんとかする――なんとかしなきゃ、いけない。
「うん。……堀芝サンも、そろそろ自分のことをやったほうがいいよ。なんか心配になってきた」
「おう。悪かったな、堀芝もたいへんなのに」
堀芝サンは気にしないでといった様子で笑顔を見せた。
その表情がふいに崩れた。勢いよく下を向いた。
……腕時計を確認した。
伝票をつかんで席を立った。
「さて、っと。わたしもう行くね。ありがとね。変な話しちゃってごめんね。忘れちゃっていいよ。いいから。じゃ!」
止める間もないくらいの早口でそう言い、会計を済ませて、堀芝サンはひらりとドアをくぐって行ってしまった。――僕たちと目を合わせることもなく。
僕は、握手で伝えたいくらいの感謝をそっけない言葉でしか言い表わせなかった。
堀芝サンは、ぎりぎりまでいつもの顔をしていた。
カンちゃんは、なにも見なかったフリをした。