彼方の蒼
5.結局このざまなんだよ
 次に気づいたとき、僕はベッドの上だった。

 かたわらには堀芝サンがいた。
 保健委員でもないのに付き添ってくれてるんだ、と思ってなにか声をかけようとしたら、さきを越された。

「あ。やっと起きた」
 なんだかきつい表情でにこりともしない。
 はて、なんだったかなー。
「おぼえてる? 小柳くんと大乱闘やったこと。そーやまくんは救急車で運ばれて、意識不明の重体だったんです!」


 椅子を僕のほうへ寄せて、堀芝サンは座りなおした。
 制服にベージュのピーコートを羽織っていた。今ついたトコなのかもしれない。 

 それにしても、救急車って……じゃあここは病院か。僕は保健室までの記憶しかない。
 確かにここ、病室に見えなくもない。ひとり部屋だし。

「殴り合いはしたけど、あれって大乱闘だったのか? 僕のほうがこてんぱんにやられただけだよ。殴り合いでさえなかったのかもしれない」
 僕はゆっくりと言った。

 顔や頭にガーゼが貼ってあって、口を動かすたびに気になってしかたがない。手で触ってみたら、腫れていた。鏡を見るのが怖い。
 堀芝サンの表情が堅いのは、僕のこの傷のせいでもあるんだろう。

 保健室では応急処置程度だったのに、病院スタッフは大げさだ。
 触った感じからして、皮膚の出ている部分のほうが少ないんじゃないかな。なにもここまで貼りつけなくたっていいじゃないか。
 それとも、僕がくたばっているあいだに、ついでに美容整形してくれたとか? 

 僕の頭の外見はともかく、中身のほうはいつもより多めにまわっている。
 打ちどころが悪くて、神経おかしくなってないか、現在自主試運転中。
 そうでもしないと、首からうえがもう、痛くて痛くてたまらない。

 喋ると皮膚がつれるんだけど、それでも黙っているよりは気が紛れる。
 あと、右手にも軽い打撲傷がある。こっちはそのままになっている。

 ――カンちゃんはきっと本気だった。
 それでいて、これでも手加減したんだろう。


「2月の風邪が蔓延するこの時節がらです。病院に行きたがる健康な受験生なんていないから、しかたなくわたしがクラス代表で様子見にきました。お見舞いではないです。バカにつける薬なんてないです。医療費削減!!」
「堀芝サン……怒ってる?」
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