彼方の蒼
「早くしないと僕の母さん戻ってくるんだろ?」
 聞かずにすむ内容とは思えなくて、催促するよりほかはなかった。

「そうだね」
 堀芝サンはしばらくのあいだ、口を閉ざしていた。


 僕の母さんはなかなか来なかった。
 5分くらいたったんだろうか。堀芝サンは挑むような目を向けて、ようやく打ちあけてくれた。
「小柳くんが停学処分になった。3日間」

 僕はカンちゃんを思った。
 あのとき――殴ったとき、お互いになにか罵りあった気がする。

 僕は自分の言ったことを思いだせない。忘れたんじゃなく、憶えていないんだ。
 無我夢中で、頭に来ていて――あの瞬間の僕は僕じゃなかった。

 カンちゃんはどうだったんだろう。
 あの短い時間で物事を筋道だててとらえ、僕に拳を振りあげたとは考えにくい。
 やっぱり、カンちゃんもどうかしていたんじゃないか。

「びっくりしないんだね」
 配慮してもらったのにリアクションがなくってごめんの意味で、僕はちょっと微笑んだ。

「予想できたからな。でも、3日っていうのは長いのかな。短いのかな」

「はじめは5日間だったんだよ。それに、そーやまくんの意識がこのまま戻らなかったら、5日でもたりないって言う人もいたみたいで。でも、倉井先生ががんばってくれたおかげで3日になった」

 堀芝サンはにこりともしない。
 僕にも理由はわかっていた。わかっているってことを、伝えたかった。

 だから僕から言ってやった。
「カンちゃん、推薦入試を受けられなかったんだね」
 堀芝サンは答えなかった。


 そのあと、僕は聞きたかったことを片っ端から聞いていった。

 いちばん言いにくいことを言ったあとだったから、堀芝サンは言いよどむこともなく、すべて話してくれた。
 ここに来たときから、その覚悟はできていたのかもしれなかった。

 クラス代表としてではなく、友人として来てくれたのだと、僕は思った。
 その証拠に、僕の意識が戻った時点でナースコールしなくてはいけなかったのに、堀芝サンはしなかった。

 戻ってきた母さんが泡を食ってナースセンターに駆けこみ、医者や看護婦さんを連れてくるまで、話した。
 ぎりぎりまで僕らの会話は続いた。
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