彼方の蒼
夜の病院は、想像していたよりもずっと静かだった。
誰かがどこかで絶対に活動しているはずなのに、静まり返っていた。
聞こえるのは、僕が作りだす衣擦れの音とスリッパの足音のみ。
存在感、ありまくり。
僕は忍者やスパイにはなれそうにない。
似たようなことが、まえにもあった。
母さんに絵を描くことを禁止された僕が、カンちゃんにヘルプを申しでて、画材一式を夜の学校へ持ち込んだっけ。
夜の学校も、ここと同じくらいひっそりと静まりかえっていたけれど、緊張感はなかった。
誰かに見つかっても逃げきれると思ったし、笑い話にもできる気がした。
僕は10円玉を握りしめ、息を潜めて、気配を殺して、病院内を歩いた。
エレベーターは使わない。階段のみ。
目指すは一階。公衆電話。
たぶんあると思うんだけど……そういや僕、病院の名前さえ知らない。
緑の公衆電話は3台並んでいた。
周囲に人気がないか、見まわしてから、銅貨を投入。
記憶の底からカンちゃん家の電話番号をサルベージ。
呼びだしコールがはじまる。
――夜中にかける電話。非常識かな?
急に心配になってきた。
カンちゃんは僕のせいで停学になった。推薦入試もできなくなった。
もしかしたら、僕の声なんて聞きたくないかもしれない。
それに、カンちゃんだけじゃない。
カンちゃんの両親も、息子をトラブルに巻き込んだ諸悪の根源である僕となんか、縁を切りたいと思っているかもしれない。
体が冷たくなっていくのを感じた。
受話器を置こうかと思った。迷った。
それでも、できなかった。
誰かがどこかで絶対に活動しているはずなのに、静まり返っていた。
聞こえるのは、僕が作りだす衣擦れの音とスリッパの足音のみ。
存在感、ありまくり。
僕は忍者やスパイにはなれそうにない。
似たようなことが、まえにもあった。
母さんに絵を描くことを禁止された僕が、カンちゃんにヘルプを申しでて、画材一式を夜の学校へ持ち込んだっけ。
夜の学校も、ここと同じくらいひっそりと静まりかえっていたけれど、緊張感はなかった。
誰かに見つかっても逃げきれると思ったし、笑い話にもできる気がした。
僕は10円玉を握りしめ、息を潜めて、気配を殺して、病院内を歩いた。
エレベーターは使わない。階段のみ。
目指すは一階。公衆電話。
たぶんあると思うんだけど……そういや僕、病院の名前さえ知らない。
緑の公衆電話は3台並んでいた。
周囲に人気がないか、見まわしてから、銅貨を投入。
記憶の底からカンちゃん家の電話番号をサルベージ。
呼びだしコールがはじまる。
――夜中にかける電話。非常識かな?
急に心配になってきた。
カンちゃんは僕のせいで停学になった。推薦入試もできなくなった。
もしかしたら、僕の声なんて聞きたくないかもしれない。
それに、カンちゃんだけじゃない。
カンちゃんの両親も、息子をトラブルに巻き込んだ諸悪の根源である僕となんか、縁を切りたいと思っているかもしれない。
体が冷たくなっていくのを感じた。
受話器を置こうかと思った。迷った。
それでも、できなかった。