彼方の蒼
 校門を出て四軒目の奥が委員長の家だった。

 こんなに近いのなら委員長の家でいいじゃないか、と言ったら、もっともらしく拒否された。

「俺はクラスメイトを家に呼ぶのがあまり好きではないんだ。学校のそばだろう? 一度誰かを招待すると、また次のヤツが来る。便利に利用されたくないんだ。わかってくれ。すまない」

 僕は頷いておいた。
 どんな反論をしても、帰ってくる委員長の言葉はいちいち長くて芝居がかっていて言い訳くさいから。


   ◇   ◇   ◇ 

 十数分後、僕の家に着いた。
 委員長は、センサーで自動点灯する廊下のライトや、リビングの巨大テレビにいちいち感動し、なかなか座ってくれなかった。


 母はすでに仕事に出たようで、食器棚の脇のホワイトボードには『行ってきます』の伝言があった。

 僕が気づかなかっただけで、二、三日まえからあったのかもしれない。

 いずれにせよ、僕は母を探しにキッチンへ来たわけじゃない。
 冷蔵庫と炊飯器の中身を確かめようとしただけだ。


 お昼にピザでも取ろうかと尋ねたら、委員長は首をぶんぶんと横に振った。

「俺はそんなにたくさんの食品添加物が入った食べ物は口にしたくないんだ。ソウヤマは毎日そんなもんを食っているのか? やめたほうがいいぞ」

 結局、近くの食堂の出前を頼んだ。
 僕も委員長も広東麺。
 あと、餃子。

 丼の輪ゴムつきラップをはずすとき、委員長は僕の5倍くらい時間がかかった。
 しかも失敗してスープを四方に飛ばした。

 委員長は恥ずかしそうに言った。
「実は店屋物って頼んだことがないんだ」

 恥らうべきは僕のほうだ。出前をしている店の電話番号を5件憶えているなんて言ったら、委員長の反応は想像に難くない。
 ソウヤマ、もっと憶えるべきものがあるだろう、ってね。

 僕らは無言で食事をしたし、そのあと静かに勉強をした。


 集中できたのか、というと、そうでもなかった。
 なんだか委員長といると落ち着かない。

 教えかたは熱心だし、僕の知っているなかではベスト3に入るくらいの生真面目さだ(そのベスト3には、倉井先生も間違いなく入る)。

 付き合いが浅いから、よくわからないことばかりだけど、委員長ってたぶんいいヤツなんだろう。

 でも僕は何度も何度も時計を見てしまった。
 早く帰ってくれないかなあと思ってしまった。
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