彼方の蒼
「ソウヤマって、ひょっとして秘密主義者なのか?」

「別にふつうだよ」

「こうして話をしていても、ソウヤマのことがよくわからないんだ。無気力というのではないし、投槍でもない。なのにどうして勉強をしないんだ? ソウヤマは間違いなく、やればできるタイプの人間だ。俺が言うんだから、確かだ」 

「……アリガトウゴザイマス」

「茶化すなよ。俺は本心から言っているんだ」

 委員長は自分のまえに広げてあるノートを避けて、心持ち身を乗り出した。

 凛々しい顔が真正面にあって、僕は気恥ずかしくなった。


 委員長は真剣そのものだ。

「ソウヤマは高遠を受験すると聞いた。今の時点では、おそらく合否の確率は五分五分だろう。俺がいくら教えてやっても、ソウヤマ自身がやる気にならないとダメなんだ。俺は学級委員だから、クラス全員が合格するまで見守る義務がある」

「それは……」
 ちょっと違うんじゃ、と言えなかった。

 委員長の熱弁は、とどまることを知らない。

「そこでだ。ソウヤマの場合、メンタル面を鍛える必要があると思った。先日の小柳との乱闘騒ぎ……あれはなんだ? 受験生なのはみんな同じだ。重圧はそれぞれにあるのに、なにも親友にやつあたりすることはないだろう。違うか?」

「やつあたりはいけないと思うよ、僕も」

 あれはやつあたりなんかじゃなく、理由ある乱闘だった――そう言ったっていいんだけど、ムダだから言わない。

 委員長の世界観が凡人に理解できないように、僕の世界観だって委員長には不可解にみえるに決まっている。


 委員長は探るような目を僕に向けた。

「それだけか? 他にもあるんじゃないか?」

「……フツーだろう」


 沈黙が落ちた。

 気まずかった。僕は話の糸口を無理に探すタチじゃない。

 けど、このときばかりは耐え切れなくって、あてもなく視線をさまよわせた。

 話題になりそうな無難かつ手頃なものはなにも見つけられず、思いつくこともなにもなかった。

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