彼方の蒼
 委員長が僕の部屋を見てみたいというので、通した。

 腕組みをして、室内をぐるりと見回している。
 部屋の主としては、査定でもされているようで、あまり気分がよくない。

 なにかコメントが欲しいトコだけど、もっともらしい口調でよくわからないことを語られるくらいなら、静かなほうがいくぶんマシ。 


「こっちは……えええ!? アトリエ? すごいな」

 自室から続くアトリエは鍵がかかっているからなかの様子は入り口のガラス窓からしか見えない。
 それでも委員長にしては過剰な反応だった。

 見るとこ見たら、早く帰ってくんない?

 委員長は今度は勉強机の脇に立てかけてあるスケッチブックを手に取って、パラパラと眺めている。

「お、これ、俺?」

 五十音名簿順だから、井上健一郎は一枚目だ。

 なにかが鉛筆にとりついたんじゃないかってくらい、するするっと描けた、いわくつきの一点。

「気に入ったならあげるよ。破って持ってっていいよ」

 厄介払いみたいな僕の発言にも、委員長は無反応で、スケッチブックに見入っている。真剣な面持ち。 

「ソウヤマって、絵を描くのうまいのな。まえから思っていたけど。才能かな。遺伝?」
「知らない」

 委員長がこちらを見た。
 僕は多少の後ろめたさを感じて、言葉を続けた。

「うまくなりたいとか、好きなのを描きたいとか、人並みに思うことはあるけどね。公立高校受験にはなんの役にも立たないからな。今は絵心よりも知識が欲しいかな」

 半分は嘘だ。
 僕はとりたてていい高校に行きたいなんて思っていないし、親しい人たちは僕のそういう気質を知っている。

 できるだけいい学校にいけば、まわりの人は少しは喜んでくれるだろうけど、これからさき本当にやっていけるのか、とかえって心配かけそうだ。

 いちいち説明をするのは面倒だから、端折った。
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