第00夜
「そう。只の、悪い夢…」
疲れているように、美由は小さく言う。
「………又、アイツが来てる…」
突然、美由は廊下の曲がり先の暗がりに顔を向けた。
明葉も、とっさにそちらを見る。
闇の中で何かが蠢いていた。
天井で、切れかけの蛍光灯が明滅を繰り返している。
明滅に合わせ、稲光を背にするようシルエットが浮かび上がる。
黒い影…最初、そうとしか表現の仕様が無かった。
それは、まるで立体的になった影絵のような姿をしている。
ぼんやりと揺らぐ、生物ではありえない全体の質感。
実体の無い何かが、四足動物を象っているように見える。
例えるなら、影で出来た黒い馬‐。
それが、ゆっくりと近づいてくる。
「逃げなきゃ…!」
明葉は美由の手を引き、化物と反対のほうへ駆け出した。
背後で影の化物が上体を反らし、獣の声で嘶く。
そして現実の馬がするよう、廊下の床を黒き蹄で蹴りつけた。
「走っても無駄よ…学校の中から出られない」
縺れそうな足で走りながら、美由は呟く。
後ろで、化物が走り始めた気配がしている。
只逃げていては、恐らく簡単に追いつかれてしまう‐。
疲れているように、美由は小さく言う。
「………又、アイツが来てる…」
突然、美由は廊下の曲がり先の暗がりに顔を向けた。
明葉も、とっさにそちらを見る。
闇の中で何かが蠢いていた。
天井で、切れかけの蛍光灯が明滅を繰り返している。
明滅に合わせ、稲光を背にするようシルエットが浮かび上がる。
黒い影…最初、そうとしか表現の仕様が無かった。
それは、まるで立体的になった影絵のような姿をしている。
ぼんやりと揺らぐ、生物ではありえない全体の質感。
実体の無い何かが、四足動物を象っているように見える。
例えるなら、影で出来た黒い馬‐。
それが、ゆっくりと近づいてくる。
「逃げなきゃ…!」
明葉は美由の手を引き、化物と反対のほうへ駆け出した。
背後で影の化物が上体を反らし、獣の声で嘶く。
そして現実の馬がするよう、廊下の床を黒き蹄で蹴りつけた。
「走っても無駄よ…学校の中から出られない」
縺れそうな足で走りながら、美由は呟く。
後ろで、化物が走り始めた気配がしている。
只逃げていては、恐らく簡単に追いつかれてしまう‐。