印毎来譜 「俺等はヒッピーだった」
1972年5月7日 一晩寝て正気にもどった。
しかしピンクピル、効いたぜ。 へへ
きょうはエイボン川のほとりで、ボケっとして終わり。
翌日、アメ公4人とブラックマウンテンとかいう、
郊外の小さい山に登ったり、次の日はシェークスピアの
生家を見たりして、ストラトフォードを満喫。
5月10日。リンカーンフェスまであと15日ある。
そうだ、ウエールズ寄ってくか。
奴等がマハリシと会った所だし、雰囲気だけでも浴びとこ。
そのあとは、リバプールをゆっくり観て、ペニーレーンも、
ストロベリーフィールズもやっつけて、奴等も行ったパブ
でも入って、一杯やってやろ。
うっしっし、行くぜ、このやろ。
朝8時。 快晴。 革ジャン脱いで親指立てて、
口笛吹いて、まず向かうはバーミンガム。
1台目、目の前で停まった。・・・ってえことは?
まあいいか、車はピカピカ、おやじもピカピカ。
えらく愛想がいい。・・・やべえか?
やっぱりな。 あー、きたきた。
おやじ、片手運転で俺の太股を弄る。
払いのけるとまたやる、知らん顔してるとまたやる。
俺の顔覗き込んできやがる。ばかやろ前向いて運転しろ!
おい、やめろってんだ。 まさぐるんじゃねえよ。
その、なまぬるい手で太腿を触るんじゃねえ。
あーもうダメだ。 NO!
「違う違う。誤解しないで、私、日本人が好きなの。
だからちょっと握手したいだけ。」
うっせえ、このやろ。太腿で握手する奴がいるかよ。
もういいから、降ろせモーホじじいめ。
おお、危ねえじゃねえか急に停めんなよ。ばっきやろ。
怒ったってしょうがねえだろ。
お前はモーホだけど俺はまともなんだからよ。
無言で降ろしやがった。
うん? こりゃ誘拐犯が人質置き去りにする場所だぞ。
40分歩いて、やっと分岐まで行った。腹へった。
20分たった。 おっ、停まったぞ。
兄ちゃんひとりのトラックだ、今度はだいじょぶか。
「どこ?」
バーミンガムのほうへ行きたいんだけど。
「OK $‘!&!%!$“#」 ん?
わかんねえ、何しゃべってんだ。 相当な田舎弁か。
こんなの初めてだ。 でも英語には英語。でも何語だ?
あっ、わかった。喋りが不自由な奴だ。
でも陽気。こうなりゃ俺ももう日本語だ。
いい天気だな兄ちゃん、いい景色だしこれでおねえちゃん
でもいりゃあ最高だぜ。いっひっひ
お前も大変だな。 パンでも食うか?
リュックからパン出そうとしたら、奴の方が早かった。
座席の後ろから、豪華サンドイッチ弁当が出た。
なるほど、長距離運ちゃん、飯はいつも車の中か。
その豪華サンドイッチを食えっていう手ぶり。
俺はいいよ、お前食えよ。
ニコニコしながら、何度もサンドイッチ弁当を指さす。
そうか、じゃせっかくだから、ひとくちいただくわ。
少し焼いたパンにチーズとハムが挟まって、旨い。
自慢げに笑って、クラクションを鳴らす兄ちゃん。
「うめえだろ、おっかさんの手作りだ」って言ってんだろな。
旨い、最高だよ。世界最高のサンドイッチだ。
お前もお前のおかあちゃんも、世界一だよ。
って、ちゃんと英語でお礼を言った。
そんで、紅茶までゴチになって1時間くらい乗った。
ヒッチに絶好のガソリンスタンドで降ろしてくれた。
じゃあな、元気でな、兄ちゃん。
グッドラック! おお、お互いにな。ありがとな。
3台目、ちょっと古めの、堅めのおやじが停まった。
すいません、リッチフィールドの方へ行きますか?
「いいよ乗りなさい」
学校の先生だって、やっぱりな。
俺のカンは結構するどくなってきてる。うっひっひ
横浜は神戸の近くかとか、女は着物着てるのかとか。
おたく、ほんと先生なの?
でも乗っけてくれたしね。そんでビートルズ大好きだって。
じゃしょうがねえ。
先生、シャーロックホームズに似てるね。いい男じゃん。
「はは、僕も推理大好きだよ」
なんとかゴマすれた。
リッチフィールドの、ユースの近くまで行ってくれた。
ありがとさん。お礼に五円玉を渡した。
きょうは、このユースで泊り。
とんがったお城が見える、優雅なユースだ。
5月11日、ユースで一緒だったイギリス人とヒッチる。
3台でシュルスベリーまで来た。
それから3台でスワローフォールズ。北ウエールズだ。
奴はダン君。2日間一緒だった。
茶色のくるっくるの髪の毛に、目はビー玉。
俺よりふたつ下の19。工学部休学中。
アイルランド系で親父は船乗りだって。ジョンみてえだ。
ロンドン生まれ生粋のコックニー。
その彼が、この辺の地名は読めねえって。
じゃあ、俺に読めるわきゃねえ。
penmannueとかbetsycoidとか、わかんねえ地名だらけ。
奴にゃ結構教わった。
chickは女、potはマリファナ、pはションベン、
far outはラリパッパ、taはどうも。だって。
こういうのは、結構大事。
ふたつ! って、向こうむきで二本指立てちゃダメ。
アメ公のfuckと同じだって。へえ。こういうのも大事。
スワローフォールズで奴と別れ、2時間も歩いた。
丘に羊、風は少し冷たいが、歩いてるから気持ちいい。
山道横の石塀の農場で、羊の毛を刈ってる農夫4人。
にこにこ挨拶してくる。
ほとんどわかんねえウエールズ語で、何か言ってる。
「触ってみるか」だろう。
毛を刈ったばかりの羊に触らせてもらった。
うええ、まだ温ったけえぞ。ぞっとする。でもありがと。
川の水は冷たく鳥はさえずり、馬の放牧。最高だ。
親指立てて歩ってたら、停まった。 緑色のでかいバン。
母と娘。 娘は14、5か、気立てのよさそな令嬢風。
母親は、透き通る肌に薄い赤い唇。茶金のショートカット。
ちッきっしょう、おくさーん。 僕何でもやりますよ。
家族になってもいいです。 ほんと、そう思った。
「こんにちわ、いい天気ね。あなた日本人でしょ。
私、日本人の女の子に知り合いがいるのよ」
そうですか。 目が光ってる、いい匂いがする。
「この子と同じ12歳でね、去年うちへ遊びに来たの」
えっ、この娘12か。 ってえことは・・・奥様あなたは。
あなたも娘さんも、とってもお綺麗ですね。
「あら、娘じゃなくて姪っ子よ」 なんでもいいんです。
しゃべるときに唇がとんがる。 素敵ですね、奥さん。
「その子、お母さんと二人でウエールズに来たんだけどね、
お母さんは先に横浜に帰って、そのあと1カ月も一人で、
私達と暮らしたのよ。ヨーコって言うの。」
へえ、じゃ日本人とは縁がありますねえ。
「元気で頭のいい子よ。とても可愛いかったわ」
うんうん、ヨーコですか。 そうですか、そんでそんで?
「最初は泣いたけど、すぐ慣れてね。帰国の時は私達と
別れるの淋しくて大泣きしたの。可哀そうだったわ。ホホ」
そうですか。 横浜なら俺のとこですよ。
「まあ! あなた横浜なの?」
はい、そうですよ。この際どうですか、家族の一員で俺を・・
「あら、ごめんなさい。ここを右へ行ったら私の家なの。
カーナフォンへは、ここで降りたほうがいいわ。
会えて楽しかったわ。あなたの旅、素敵ね」
もうカーナフォンなんか、どうだっていいのに・・・。
予定なんかねえし、なんだったらあなたの家に・・・。
「じゃあ、気をつけてね。 幸運を祈るわ」
・・奥さん、いま、ボクの幸運はなくなりました。うー。
道端に座り込んで、水飲んで一服。
右肩や腕に、まだ奥さんの香りがちょっと残ってます。
こんな嵐が丘みてえなド田舎に、あんな綺麗で優しくて
清楚で素敵な、奥さんや娘さんがひっそりと住んでるんだ。
・・・うーん、お幸せにね。
さーあ行くぞ! ローハイドの隊長のように、腰をあげた。
と、待ってたようにジープが停まった。
ゴリゴリの軍服、こりゃモノホンだ、マニアじゃねえ。
だいじょぶか? 軍人にゃそっち系が多い。
カーナフォン方面に行きたいんですが。
「ハイッ、自分もカーナフォンに行くんであります。
さあ、こっちの革張りの助手席にお乗り下さい」
悪りいね、仕事中じゃないの。将校が来て入隊しろとかヤダヨ。
「失礼ですが、聞いてもよろしいでしょうか」
何だよ、堅えな。
「君は日本人ですか、学生ですか、それとも会社員ですか。
ウエールズには休暇ですか仕事ですか」
へへ、俺はバンドマンさ。
ビートルズに会いに、はるばる日本から来たのよ。
「自分は軍楽隊でハープを演ります。バグパイプも吹きます」
軍楽隊と夜店のドンバじゃ、大違いだけど。 いい奴だ。
「よし、音楽好きなら、自分がいいもの見せてあげますよ。
あと15分で着きますから、時間とらせませんよ」
よしって、兵長殿。 やけに張り切ってんな。
俺は、さっきの奥様の残り香が・・・う~ん
じっとして居たいくらいなのよ・・・心に刻んでさ・・・。
連れてこられた軍隊歴史館兼軍楽隊博物館。 立派。
「心配ありません。あなたは自分の親友ってことで言いました。
お金はとらないように、入口で交渉しました。OKです」
「ここのこれは、ローマ帝国時代の管の原型。そしてこれは
エジンバラの戦いで・・これはスコットランドの有名な・・
そんでこれは十字軍愛用の・・・これは・・」
はい、素晴らしいです。兵長殿。
「これは軍楽隊の楽器です。これが軍楽ハープでこれはラッパ。
そしてこれが、またすごい・・」
もう40分たちました兵長殿。 喉が渇いたであります。
裏庭のパーラーでお茶にクッキー奢ってくれた。やさしい兵長。
俺はもうどこに行ってもイギリス軍の味方だよ。ありがとさん。
「どうでしたか。楽しめましたか。ではお時間をとらせたので、
カーナフォンのユースまでお送りします」
なんだか悪りいな。 じゃよろしくね。
兵長の言葉に嘘はない。ユースの入口まで行ってくれた。
ありがとござんすでした、兵長殿。
カーナフォンユースは、小じんまりした普通の宿。
1泊50p、シャワーは5p。 ベッドはまあまあ柔らかい。
嵐が丘の奥さ~ん 夢に出てきてくださーいzzz
しかしピンクピル、効いたぜ。 へへ
きょうはエイボン川のほとりで、ボケっとして終わり。
翌日、アメ公4人とブラックマウンテンとかいう、
郊外の小さい山に登ったり、次の日はシェークスピアの
生家を見たりして、ストラトフォードを満喫。
5月10日。リンカーンフェスまであと15日ある。
そうだ、ウエールズ寄ってくか。
奴等がマハリシと会った所だし、雰囲気だけでも浴びとこ。
そのあとは、リバプールをゆっくり観て、ペニーレーンも、
ストロベリーフィールズもやっつけて、奴等も行ったパブ
でも入って、一杯やってやろ。
うっしっし、行くぜ、このやろ。
朝8時。 快晴。 革ジャン脱いで親指立てて、
口笛吹いて、まず向かうはバーミンガム。
1台目、目の前で停まった。・・・ってえことは?
まあいいか、車はピカピカ、おやじもピカピカ。
えらく愛想がいい。・・・やべえか?
やっぱりな。 あー、きたきた。
おやじ、片手運転で俺の太股を弄る。
払いのけるとまたやる、知らん顔してるとまたやる。
俺の顔覗き込んできやがる。ばかやろ前向いて運転しろ!
おい、やめろってんだ。 まさぐるんじゃねえよ。
その、なまぬるい手で太腿を触るんじゃねえ。
あーもうダメだ。 NO!
「違う違う。誤解しないで、私、日本人が好きなの。
だからちょっと握手したいだけ。」
うっせえ、このやろ。太腿で握手する奴がいるかよ。
もういいから、降ろせモーホじじいめ。
おお、危ねえじゃねえか急に停めんなよ。ばっきやろ。
怒ったってしょうがねえだろ。
お前はモーホだけど俺はまともなんだからよ。
無言で降ろしやがった。
うん? こりゃ誘拐犯が人質置き去りにする場所だぞ。
40分歩いて、やっと分岐まで行った。腹へった。
20分たった。 おっ、停まったぞ。
兄ちゃんひとりのトラックだ、今度はだいじょぶか。
「どこ?」
バーミンガムのほうへ行きたいんだけど。
「OK $‘!&!%!$“#」 ん?
わかんねえ、何しゃべってんだ。 相当な田舎弁か。
こんなの初めてだ。 でも英語には英語。でも何語だ?
あっ、わかった。喋りが不自由な奴だ。
でも陽気。こうなりゃ俺ももう日本語だ。
いい天気だな兄ちゃん、いい景色だしこれでおねえちゃん
でもいりゃあ最高だぜ。いっひっひ
お前も大変だな。 パンでも食うか?
リュックからパン出そうとしたら、奴の方が早かった。
座席の後ろから、豪華サンドイッチ弁当が出た。
なるほど、長距離運ちゃん、飯はいつも車の中か。
その豪華サンドイッチを食えっていう手ぶり。
俺はいいよ、お前食えよ。
ニコニコしながら、何度もサンドイッチ弁当を指さす。
そうか、じゃせっかくだから、ひとくちいただくわ。
少し焼いたパンにチーズとハムが挟まって、旨い。
自慢げに笑って、クラクションを鳴らす兄ちゃん。
「うめえだろ、おっかさんの手作りだ」って言ってんだろな。
旨い、最高だよ。世界最高のサンドイッチだ。
お前もお前のおかあちゃんも、世界一だよ。
って、ちゃんと英語でお礼を言った。
そんで、紅茶までゴチになって1時間くらい乗った。
ヒッチに絶好のガソリンスタンドで降ろしてくれた。
じゃあな、元気でな、兄ちゃん。
グッドラック! おお、お互いにな。ありがとな。
3台目、ちょっと古めの、堅めのおやじが停まった。
すいません、リッチフィールドの方へ行きますか?
「いいよ乗りなさい」
学校の先生だって、やっぱりな。
俺のカンは結構するどくなってきてる。うっひっひ
横浜は神戸の近くかとか、女は着物着てるのかとか。
おたく、ほんと先生なの?
でも乗っけてくれたしね。そんでビートルズ大好きだって。
じゃしょうがねえ。
先生、シャーロックホームズに似てるね。いい男じゃん。
「はは、僕も推理大好きだよ」
なんとかゴマすれた。
リッチフィールドの、ユースの近くまで行ってくれた。
ありがとさん。お礼に五円玉を渡した。
きょうは、このユースで泊り。
とんがったお城が見える、優雅なユースだ。
5月11日、ユースで一緒だったイギリス人とヒッチる。
3台でシュルスベリーまで来た。
それから3台でスワローフォールズ。北ウエールズだ。
奴はダン君。2日間一緒だった。
茶色のくるっくるの髪の毛に、目はビー玉。
俺よりふたつ下の19。工学部休学中。
アイルランド系で親父は船乗りだって。ジョンみてえだ。
ロンドン生まれ生粋のコックニー。
その彼が、この辺の地名は読めねえって。
じゃあ、俺に読めるわきゃねえ。
penmannueとかbetsycoidとか、わかんねえ地名だらけ。
奴にゃ結構教わった。
chickは女、potはマリファナ、pはションベン、
far outはラリパッパ、taはどうも。だって。
こういうのは、結構大事。
ふたつ! って、向こうむきで二本指立てちゃダメ。
アメ公のfuckと同じだって。へえ。こういうのも大事。
スワローフォールズで奴と別れ、2時間も歩いた。
丘に羊、風は少し冷たいが、歩いてるから気持ちいい。
山道横の石塀の農場で、羊の毛を刈ってる農夫4人。
にこにこ挨拶してくる。
ほとんどわかんねえウエールズ語で、何か言ってる。
「触ってみるか」だろう。
毛を刈ったばかりの羊に触らせてもらった。
うええ、まだ温ったけえぞ。ぞっとする。でもありがと。
川の水は冷たく鳥はさえずり、馬の放牧。最高だ。
親指立てて歩ってたら、停まった。 緑色のでかいバン。
母と娘。 娘は14、5か、気立てのよさそな令嬢風。
母親は、透き通る肌に薄い赤い唇。茶金のショートカット。
ちッきっしょう、おくさーん。 僕何でもやりますよ。
家族になってもいいです。 ほんと、そう思った。
「こんにちわ、いい天気ね。あなた日本人でしょ。
私、日本人の女の子に知り合いがいるのよ」
そうですか。 目が光ってる、いい匂いがする。
「この子と同じ12歳でね、去年うちへ遊びに来たの」
えっ、この娘12か。 ってえことは・・・奥様あなたは。
あなたも娘さんも、とってもお綺麗ですね。
「あら、娘じゃなくて姪っ子よ」 なんでもいいんです。
しゃべるときに唇がとんがる。 素敵ですね、奥さん。
「その子、お母さんと二人でウエールズに来たんだけどね、
お母さんは先に横浜に帰って、そのあと1カ月も一人で、
私達と暮らしたのよ。ヨーコって言うの。」
へえ、じゃ日本人とは縁がありますねえ。
「元気で頭のいい子よ。とても可愛いかったわ」
うんうん、ヨーコですか。 そうですか、そんでそんで?
「最初は泣いたけど、すぐ慣れてね。帰国の時は私達と
別れるの淋しくて大泣きしたの。可哀そうだったわ。ホホ」
そうですか。 横浜なら俺のとこですよ。
「まあ! あなた横浜なの?」
はい、そうですよ。この際どうですか、家族の一員で俺を・・
「あら、ごめんなさい。ここを右へ行ったら私の家なの。
カーナフォンへは、ここで降りたほうがいいわ。
会えて楽しかったわ。あなたの旅、素敵ね」
もうカーナフォンなんか、どうだっていいのに・・・。
予定なんかねえし、なんだったらあなたの家に・・・。
「じゃあ、気をつけてね。 幸運を祈るわ」
・・奥さん、いま、ボクの幸運はなくなりました。うー。
道端に座り込んで、水飲んで一服。
右肩や腕に、まだ奥さんの香りがちょっと残ってます。
こんな嵐が丘みてえなド田舎に、あんな綺麗で優しくて
清楚で素敵な、奥さんや娘さんがひっそりと住んでるんだ。
・・・うーん、お幸せにね。
さーあ行くぞ! ローハイドの隊長のように、腰をあげた。
と、待ってたようにジープが停まった。
ゴリゴリの軍服、こりゃモノホンだ、マニアじゃねえ。
だいじょぶか? 軍人にゃそっち系が多い。
カーナフォン方面に行きたいんですが。
「ハイッ、自分もカーナフォンに行くんであります。
さあ、こっちの革張りの助手席にお乗り下さい」
悪りいね、仕事中じゃないの。将校が来て入隊しろとかヤダヨ。
「失礼ですが、聞いてもよろしいでしょうか」
何だよ、堅えな。
「君は日本人ですか、学生ですか、それとも会社員ですか。
ウエールズには休暇ですか仕事ですか」
へへ、俺はバンドマンさ。
ビートルズに会いに、はるばる日本から来たのよ。
「自分は軍楽隊でハープを演ります。バグパイプも吹きます」
軍楽隊と夜店のドンバじゃ、大違いだけど。 いい奴だ。
「よし、音楽好きなら、自分がいいもの見せてあげますよ。
あと15分で着きますから、時間とらせませんよ」
よしって、兵長殿。 やけに張り切ってんな。
俺は、さっきの奥様の残り香が・・・う~ん
じっとして居たいくらいなのよ・・・心に刻んでさ・・・。
連れてこられた軍隊歴史館兼軍楽隊博物館。 立派。
「心配ありません。あなたは自分の親友ってことで言いました。
お金はとらないように、入口で交渉しました。OKです」
「ここのこれは、ローマ帝国時代の管の原型。そしてこれは
エジンバラの戦いで・・これはスコットランドの有名な・・
そんでこれは十字軍愛用の・・・これは・・」
はい、素晴らしいです。兵長殿。
「これは軍楽隊の楽器です。これが軍楽ハープでこれはラッパ。
そしてこれが、またすごい・・」
もう40分たちました兵長殿。 喉が渇いたであります。
裏庭のパーラーでお茶にクッキー奢ってくれた。やさしい兵長。
俺はもうどこに行ってもイギリス軍の味方だよ。ありがとさん。
「どうでしたか。楽しめましたか。ではお時間をとらせたので、
カーナフォンのユースまでお送りします」
なんだか悪りいな。 じゃよろしくね。
兵長の言葉に嘘はない。ユースの入口まで行ってくれた。
ありがとござんすでした、兵長殿。
カーナフォンユースは、小じんまりした普通の宿。
1泊50p、シャワーは5p。 ベッドはまあまあ柔らかい。
嵐が丘の奥さ~ん 夢に出てきてくださーいzzz