印毎来譜 「俺等はヒッピーだった」
5月31日。
ついにリンカ-ンフェスも終わった。いやあー 興奮したぜ。
5日間も野外でのコンサート、さすがイギリス。
日本じゃできねえ。
アメリカのウッドストックは見れなかったが、
もっとすごかったかもな。
大将とスコットと三人でリンカーンユ-スを出て、
大将はダブリンまで行くってことで別れた。
俺はスコットとA2で別れて、奴はレイク方面へ、
俺はA1でロンドンへ。
ヒッチ始めたらバイクが停まった
「ここじゃ車停まらねえだろ、国道まで乗ってけよ」
まあ...ありがとだけど、バイクのケツに乗るのかよ。
今までヒッチで初めてだ。
ダイジョブかよ頼むぜ。ゆっくり行こうぜ、な。
リュックが、足が、腹が、頭が、うわー振り落とされる。
もうダメ、もういいわ。 ありがとおやじ。
15分乗った。おやじはなんと反対方面に戻ってった。
わざわざ来てくれたのかよ、ありがとな。
親切なおっさんだ。 でも恐かった、ひっひ。
夕方ロンドンに戻り、アールズコートのユースへ行く。
知った顔が数人いるが、満員。
しょうがねえ。 困ったときのミセスケーンだ。電話。
「oh yoshi!元気なの?」
元気です。 実は僕、今夜泊るとこないんですよ。
「心配ないわ、おいでなさい」ミセスケーンは優しい。
俺、昔の下宿先に泊るわ。 じゃ一杯やるか。
調子こいてパブで飲んで、下宿着いたら11時。
でも笑顔で出迎えてくれた、ミセスケーン。ありがとさん。
そおっと部屋に上がって、溜まってた手紙を読む。
久々の漢字、懐かしい。
お袋、バンド仲間、北欧組から7通も来てる。
ミセスケーンがちゃんと取っといてくれたってわけだ。
中山が、俺が紹介したバースのレストランで働いてるって。
やるな、いい根性だ。 じゃあ俺も行くかな。
翌日、大田君とピカデリーまで出たついでに、
リンカーンで録ったテープを日本に送った。こりゃ宝だ。
太田君、俺バース行って来ますよ。
「お前はいいよな。好きな時に好きなところ行けて」
まあね、留学生じゃあないし気楽なもんです。
中山君が働いてるってこたあ、まともな所なんだろ・・・。
6月4日 いい天気。絶好のヒッチ日和。
洗濯物を全部たたんでくれて、弁当ランチも作ってくれた。
ミセスケーンにお別れ、頬にキス。
「ヨシ、気をつけてね。またいつでも来ていいのよ」
は~い、ありがとございまーす。優しいね嬉しいね。
でもちゃんと、5ポンド払うものは払った。
さあ、またタビニンとなってヒッチだ。南西部に向かう。
今度は何が起きるんだ、ウッヒッヒ。
ブライトンまでは列車で行って、そこからヒッチ。
ワージンまで1台で行った。快調。潮風ゴキゲン。
ちょっと歩くか、ってこれが失敗だった。
海見ながら歩いて公園で昼寝して、軍楽隊の野外演奏
見てたら調子乗りすぎた。
気がついたらメイン道路を外れてた。 あ~あ。
観光用小型バスに只乗りして、やっと国道に出た。
もう日が暮れる。しょうがねえポーツマスまで列車だ。
ユース着いたら9時 どうもヒッチの感が鈍ったか
6月5日 ユースで朝飯。サンドイッチ作って出発。
1時間歩いたら雨。バス停の屋根の下でパン食う。
バスが来た。5人しか乗ってねえのに車掌が来ねえ。
ヒッピーに優しいイギリス、10分タダ乗りで降りた。
親指立てたら、すぐに紺色のワゴンが停まった。
アイルランドのお兄さん。見るからに親切そう。
ドチェスターに住んでる絵描きだって。
途中サテンでお茶とケーキおごってくれて
「家に来て女房と娘に会えよ」って言ってくれたが、
俺も予定あるしさ。 まあありがとな。
1時間以上乗って、バス停で降ろしてくれた。
そんでバスの運ちゃんに
「こいつは日本人だ。イギリス初めて。心配ない、
俺が保障する。リトンチェニーのユースまで
乗せてってくれ」
バス代まで払ってくれた優しい画家さん。ありがと。
お陰様でリトンチェニーのユースに早めに着いた。
スーパーでビールと食糧仕入れて、ユースで晩飯。
ここのキッチンは小綺麗でいい匂い。
魚の缶詰開けてチーズサンド作ってたら、隣の
赤いバンダナの娘が言った。
「あなた日本人でしょ?バカンスなの?」
可愛いぜ! いや、バースへ行くんだ、働きにさ。
「へえ楽しそうね」
一人で食い始めたら、その娘と友達に呼ばれた。
「ねえ、こっちのテーブルに来て一緒に食べない?」
はいはい、行きますよん。
「これは私の作ったトマトスープよ、はいどうぞ」
いいじゃない! 頂きまーす。 ひっひ。
「私アンて言うの、よろしくね。アメリカからよ。
ロンドンで知り合ったこの子と自転車で旅してんの。
へえ、アメ公か、ヤンキードールだな。
「私の母はニューヨークで日本人の世話してるの。
私も日本人は大好きよ」
なにい?! こいつあラッキー。聞いてみっか。
俺さ、アメリカ行きたいんだけどさ、ビザ取るの難しくて
困ってんだ。アメリカから手紙をもらえれば最高なのよ。
「ああそうなの」って、その場で手紙書き始めた。
アメリカに来たら泊る所は心配ないって書いてくれるかな。
招待状みたいな感じでさ。
住所はこのロンドンの下宿先に送ってほしいんだ。
「いいわよ、あなたの役に立つって幸せよ」
そうか、幸せだろ、俺も幸せだよ、最高だよ。
ありがとアン!チャンスだ。これでホントに手紙来れば
アメリカのビザが取れるかもだ。 うっひっひっ。
飯の後、アンと3人でパブで一杯。
勿論奢りだよ、なんたってNYがかかってる。
アンは18歳。男まさりだけど眼鏡の奥の目がいい。
薄茶色の目にそばかす。 ちゃきちゃきのヤンキー娘。
「この住所の母に連絡すれば、面倒見てくれると思うわ。
グッドラックね」
タイムライフビルディングか。どのへんだろな。
ニューヨークが見えてきたぞ! あーりがとー アン。
翌日アンと別れてヒッチ。プリマスまで1台2時間できた。
でもユースは最悪。モーホ野郎が夜ベッドに入ってきやがった。
お前なにやってんだ、ばかやろう入って来んじゃねえ!
二段ベッドの上から蹴っ飛ばしてやった。落ちた野郎、
スッポンポンだスッポンポン。 何やってんだばかめ。
悪びれもしねえで、ブラブラさせながらベッドに戻った。
アメ公もカナ公も大笑いだ。
あーあ、厄払いにランズエンドでも行くかな。
最南端まで行ってやるぞ。
・・行ったら、標識が建ってただけ。
どんだけつまんねえか確かめに行くのが観光。結論だ。
ペンザンスのユースに1泊。観光名所だし客は多い。
ヒッピーが多いから情報もとれる。
結構おやじの一人旅が居るが、ヒマなのか。
まさか、モーホの相手探しじゃねえだろうな、ウヘヘ。
翌朝、3台でバースに入った。せっかくだから街を見物。
歴史に詳しいカナ公と会って、二人でブラついた。
ローマ時代のどでかい風呂がある。すげえ。
翌6月12日 レストランに行くと中山君がいた。
よう! 久しぶり元気?
「久しぶりです。紹介してもらってどうもです。
そんで、なんなんだけど、明後日カナダ行くんですよ」
そうか、俺がその後釜ってわけか。
「うん、よろしくです」
いいよ、どうせヒマだし金も減ってきたしな。稼ぐかな。
奥から見覚えのある、チャイナおばさんが出てきた。
先月、リージェントパークで俺をナンパしたばばあだ。
「おお、良く来たあるね。仕事するか」
まあ、いいけどさ。シャワーくらい浴びさせろよ。
荷物置いたらすぐ、天井の低い部屋に連れてかれた。
「ここあなただけの部屋。シャワーある、お湯出るOK」
屋根裏部屋か。まあ贅沢は言えねえ。
「じゃあ仕事だ」 せっかちめ、中国流か。
赤いエプロン付けてキッチンに入る。
「さあ、あなたの仕事これだけ」
犬は居る、ネズミは走る、ゴキも走る。すげえ。
ここで、なにしろってんだ。
カレーとフィッシュ&チップスしかない店。
全部テイクアウト。 客は結構来る。
玉ねぎ切ってエビむいて、マシュルム洗って芋切って、
11時から2時半まで。
そんで、昼寝して6時から夜12時半まで。
飯は3回ともカレー。ばかめ、飽きるぜ。
そんで仕事はまだある。 これが問題。
夜中1時に部屋に戻ったら、約1時間のモヤシ飼育係。
1m位の麻袋に、土ともやしの種を入れる。
それをバスタブの真ん中に立てて、横からシャワーを
かけて置いとく。
そうすんと、翌朝には芽が出てるってわけだ。
「絶対に石鹸水付けちゃだめ、絶対よ。いいね。
そんで、朝起きた時も水やる、いいね、わかった?」
んなこと言ったって、バスタブは俺の部屋ん中だ。
ベッドとバスタブで部屋は占領されてんだぜ、ったく。
夜は、モヤシをどかして風呂に入る。
終わったらまたバスタブの真ん中にモヤシを置く。
俺より偉いモヤシ様。 水やるとなんか音がするんだ。
シューシューキューキューって気味悪りい、寝れねえ。
モヤシの世話で眠るのは3時。
そんで5日目に、やっちゃった。
うえー、こんなになっちゃうんだ、すげえな。
夜中に風呂の石鹸水を吸っちゃったんだろ。
朝起きたらモヤシが麻袋から出てる。
芽が下に垂れて臭え。モヤシ様は全滅。もや死だ。
「なにやってんの、あなた! だから私言った。
石鹸水はダメだ。お前馬鹿か! 最低だ」
いや、どうもすいません。明日からちゃんとやります。
「・・あんた、この仕事向いてないね!」
なんだとこのやろ! 向いてるも向いてねえも、
行きずりのヒッピー使って、1日中カレー食わせやがって。
なんだよ、そうかよ、いいよ辞めてやるよ、金くれ!
5日で10ポンドだ! すっと出しやがった。
そういうとこは、はっきりしてるゴクチューばばあめ。
その夜は最後だし、思いっきり石鹸使ってゴシゴシゴシ。
ハリウッドの女優並み、泡泡で風呂入ってやった。
ヴァッキヤロー!
ついにリンカ-ンフェスも終わった。いやあー 興奮したぜ。
5日間も野外でのコンサート、さすがイギリス。
日本じゃできねえ。
アメリカのウッドストックは見れなかったが、
もっとすごかったかもな。
大将とスコットと三人でリンカーンユ-スを出て、
大将はダブリンまで行くってことで別れた。
俺はスコットとA2で別れて、奴はレイク方面へ、
俺はA1でロンドンへ。
ヒッチ始めたらバイクが停まった
「ここじゃ車停まらねえだろ、国道まで乗ってけよ」
まあ...ありがとだけど、バイクのケツに乗るのかよ。
今までヒッチで初めてだ。
ダイジョブかよ頼むぜ。ゆっくり行こうぜ、な。
リュックが、足が、腹が、頭が、うわー振り落とされる。
もうダメ、もういいわ。 ありがとおやじ。
15分乗った。おやじはなんと反対方面に戻ってった。
わざわざ来てくれたのかよ、ありがとな。
親切なおっさんだ。 でも恐かった、ひっひ。
夕方ロンドンに戻り、アールズコートのユースへ行く。
知った顔が数人いるが、満員。
しょうがねえ。 困ったときのミセスケーンだ。電話。
「oh yoshi!元気なの?」
元気です。 実は僕、今夜泊るとこないんですよ。
「心配ないわ、おいでなさい」ミセスケーンは優しい。
俺、昔の下宿先に泊るわ。 じゃ一杯やるか。
調子こいてパブで飲んで、下宿着いたら11時。
でも笑顔で出迎えてくれた、ミセスケーン。ありがとさん。
そおっと部屋に上がって、溜まってた手紙を読む。
久々の漢字、懐かしい。
お袋、バンド仲間、北欧組から7通も来てる。
ミセスケーンがちゃんと取っといてくれたってわけだ。
中山が、俺が紹介したバースのレストランで働いてるって。
やるな、いい根性だ。 じゃあ俺も行くかな。
翌日、大田君とピカデリーまで出たついでに、
リンカーンで録ったテープを日本に送った。こりゃ宝だ。
太田君、俺バース行って来ますよ。
「お前はいいよな。好きな時に好きなところ行けて」
まあね、留学生じゃあないし気楽なもんです。
中山君が働いてるってこたあ、まともな所なんだろ・・・。
6月4日 いい天気。絶好のヒッチ日和。
洗濯物を全部たたんでくれて、弁当ランチも作ってくれた。
ミセスケーンにお別れ、頬にキス。
「ヨシ、気をつけてね。またいつでも来ていいのよ」
は~い、ありがとございまーす。優しいね嬉しいね。
でもちゃんと、5ポンド払うものは払った。
さあ、またタビニンとなってヒッチだ。南西部に向かう。
今度は何が起きるんだ、ウッヒッヒ。
ブライトンまでは列車で行って、そこからヒッチ。
ワージンまで1台で行った。快調。潮風ゴキゲン。
ちょっと歩くか、ってこれが失敗だった。
海見ながら歩いて公園で昼寝して、軍楽隊の野外演奏
見てたら調子乗りすぎた。
気がついたらメイン道路を外れてた。 あ~あ。
観光用小型バスに只乗りして、やっと国道に出た。
もう日が暮れる。しょうがねえポーツマスまで列車だ。
ユース着いたら9時 どうもヒッチの感が鈍ったか
6月5日 ユースで朝飯。サンドイッチ作って出発。
1時間歩いたら雨。バス停の屋根の下でパン食う。
バスが来た。5人しか乗ってねえのに車掌が来ねえ。
ヒッピーに優しいイギリス、10分タダ乗りで降りた。
親指立てたら、すぐに紺色のワゴンが停まった。
アイルランドのお兄さん。見るからに親切そう。
ドチェスターに住んでる絵描きだって。
途中サテンでお茶とケーキおごってくれて
「家に来て女房と娘に会えよ」って言ってくれたが、
俺も予定あるしさ。 まあありがとな。
1時間以上乗って、バス停で降ろしてくれた。
そんでバスの運ちゃんに
「こいつは日本人だ。イギリス初めて。心配ない、
俺が保障する。リトンチェニーのユースまで
乗せてってくれ」
バス代まで払ってくれた優しい画家さん。ありがと。
お陰様でリトンチェニーのユースに早めに着いた。
スーパーでビールと食糧仕入れて、ユースで晩飯。
ここのキッチンは小綺麗でいい匂い。
魚の缶詰開けてチーズサンド作ってたら、隣の
赤いバンダナの娘が言った。
「あなた日本人でしょ?バカンスなの?」
可愛いぜ! いや、バースへ行くんだ、働きにさ。
「へえ楽しそうね」
一人で食い始めたら、その娘と友達に呼ばれた。
「ねえ、こっちのテーブルに来て一緒に食べない?」
はいはい、行きますよん。
「これは私の作ったトマトスープよ、はいどうぞ」
いいじゃない! 頂きまーす。 ひっひ。
「私アンて言うの、よろしくね。アメリカからよ。
ロンドンで知り合ったこの子と自転車で旅してんの。
へえ、アメ公か、ヤンキードールだな。
「私の母はニューヨークで日本人の世話してるの。
私も日本人は大好きよ」
なにい?! こいつあラッキー。聞いてみっか。
俺さ、アメリカ行きたいんだけどさ、ビザ取るの難しくて
困ってんだ。アメリカから手紙をもらえれば最高なのよ。
「ああそうなの」って、その場で手紙書き始めた。
アメリカに来たら泊る所は心配ないって書いてくれるかな。
招待状みたいな感じでさ。
住所はこのロンドンの下宿先に送ってほしいんだ。
「いいわよ、あなたの役に立つって幸せよ」
そうか、幸せだろ、俺も幸せだよ、最高だよ。
ありがとアン!チャンスだ。これでホントに手紙来れば
アメリカのビザが取れるかもだ。 うっひっひっ。
飯の後、アンと3人でパブで一杯。
勿論奢りだよ、なんたってNYがかかってる。
アンは18歳。男まさりだけど眼鏡の奥の目がいい。
薄茶色の目にそばかす。 ちゃきちゃきのヤンキー娘。
「この住所の母に連絡すれば、面倒見てくれると思うわ。
グッドラックね」
タイムライフビルディングか。どのへんだろな。
ニューヨークが見えてきたぞ! あーりがとー アン。
翌日アンと別れてヒッチ。プリマスまで1台2時間できた。
でもユースは最悪。モーホ野郎が夜ベッドに入ってきやがった。
お前なにやってんだ、ばかやろう入って来んじゃねえ!
二段ベッドの上から蹴っ飛ばしてやった。落ちた野郎、
スッポンポンだスッポンポン。 何やってんだばかめ。
悪びれもしねえで、ブラブラさせながらベッドに戻った。
アメ公もカナ公も大笑いだ。
あーあ、厄払いにランズエンドでも行くかな。
最南端まで行ってやるぞ。
・・行ったら、標識が建ってただけ。
どんだけつまんねえか確かめに行くのが観光。結論だ。
ペンザンスのユースに1泊。観光名所だし客は多い。
ヒッピーが多いから情報もとれる。
結構おやじの一人旅が居るが、ヒマなのか。
まさか、モーホの相手探しじゃねえだろうな、ウヘヘ。
翌朝、3台でバースに入った。せっかくだから街を見物。
歴史に詳しいカナ公と会って、二人でブラついた。
ローマ時代のどでかい風呂がある。すげえ。
翌6月12日 レストランに行くと中山君がいた。
よう! 久しぶり元気?
「久しぶりです。紹介してもらってどうもです。
そんで、なんなんだけど、明後日カナダ行くんですよ」
そうか、俺がその後釜ってわけか。
「うん、よろしくです」
いいよ、どうせヒマだし金も減ってきたしな。稼ぐかな。
奥から見覚えのある、チャイナおばさんが出てきた。
先月、リージェントパークで俺をナンパしたばばあだ。
「おお、良く来たあるね。仕事するか」
まあ、いいけどさ。シャワーくらい浴びさせろよ。
荷物置いたらすぐ、天井の低い部屋に連れてかれた。
「ここあなただけの部屋。シャワーある、お湯出るOK」
屋根裏部屋か。まあ贅沢は言えねえ。
「じゃあ仕事だ」 せっかちめ、中国流か。
赤いエプロン付けてキッチンに入る。
「さあ、あなたの仕事これだけ」
犬は居る、ネズミは走る、ゴキも走る。すげえ。
ここで、なにしろってんだ。
カレーとフィッシュ&チップスしかない店。
全部テイクアウト。 客は結構来る。
玉ねぎ切ってエビむいて、マシュルム洗って芋切って、
11時から2時半まで。
そんで、昼寝して6時から夜12時半まで。
飯は3回ともカレー。ばかめ、飽きるぜ。
そんで仕事はまだある。 これが問題。
夜中1時に部屋に戻ったら、約1時間のモヤシ飼育係。
1m位の麻袋に、土ともやしの種を入れる。
それをバスタブの真ん中に立てて、横からシャワーを
かけて置いとく。
そうすんと、翌朝には芽が出てるってわけだ。
「絶対に石鹸水付けちゃだめ、絶対よ。いいね。
そんで、朝起きた時も水やる、いいね、わかった?」
んなこと言ったって、バスタブは俺の部屋ん中だ。
ベッドとバスタブで部屋は占領されてんだぜ、ったく。
夜は、モヤシをどかして風呂に入る。
終わったらまたバスタブの真ん中にモヤシを置く。
俺より偉いモヤシ様。 水やるとなんか音がするんだ。
シューシューキューキューって気味悪りい、寝れねえ。
モヤシの世話で眠るのは3時。
そんで5日目に、やっちゃった。
うえー、こんなになっちゃうんだ、すげえな。
夜中に風呂の石鹸水を吸っちゃったんだろ。
朝起きたらモヤシが麻袋から出てる。
芽が下に垂れて臭え。モヤシ様は全滅。もや死だ。
「なにやってんの、あなた! だから私言った。
石鹸水はダメだ。お前馬鹿か! 最低だ」
いや、どうもすいません。明日からちゃんとやります。
「・・あんた、この仕事向いてないね!」
なんだとこのやろ! 向いてるも向いてねえも、
行きずりのヒッピー使って、1日中カレー食わせやがって。
なんだよ、そうかよ、いいよ辞めてやるよ、金くれ!
5日で10ポンドだ! すっと出しやがった。
そういうとこは、はっきりしてるゴクチューばばあめ。
その夜は最後だし、思いっきり石鹸使ってゴシゴシゴシ。
ハリウッドの女優並み、泡泡で風呂入ってやった。
ヴァッキヤロー!