印毎来譜 「俺等はヒッピーだった」
1972年6月17日
バースのカレー屋、5日でクビ。
あ~あ、もやしにやられるとは思ってなかったぜ。
fuckin bean sproutsめ!
腐ったもやしみたいに、うなだれてロンドンに戻った。
夕方、ユースの食堂で妙にもやしが食いてえ。くっそ。
チャイニーズレストラン行って、もやしそばを食った。
ひえー、こんな形のトラウマもあるのか、ばかみてえだ。
さあ、まずはヤサ探しだ。
きょうはアールズコートのユースだが不便でしょうがねえ。
かといって、またミセスケーンってわけにゃいかねえし。
おっ、そうだ金田だ。奴のアパートに転がり込むか。
住所調べて行ってみた。リージェントパークの隣でいい所。
もひとり日本人が居てシェアしてる。 汚ねえが広い。
奴等も部屋代助かるって言うし、ベッド入れてもらって、
しばらく世話になることにした。週10ポンド、まあいいか。
翌日、久々にストレッサムコモンのミセスケーンの所へ。
「あら?どうしたのヨシ、バースじゃなかったの?」
ええ、ちょっと休みをもらったんで、手紙取りに来ました。
「あらそうなの、よく来たわ。手紙10通くらい来てるわよ。
ところでバースの仕事はどう?」
ええ、仕事はすごく楽しくて、元気でやってますよ。
いつもの濃いお茶とビスケット出してくれた。
前掛け姿のミセスケーン。いい匂い。
テーブルに両肘ついて、顎を乗せる得意のポーズで、
「ねえ、日に焼けたんじゃない? 元気そうね。
ヨシは何でも挑戦するのね、勇気があるし若いっていいわね」
いやあ、ミセスケーンのお陰ですよ。
あん時拾ってもらわなかったら、俺今頃どうなってたか。
「バースは暖かくていい所ね。私も一度行ったことあるわ。
ヨシが働いてるうちに遊びに行こうかしら」
いやあの、まあそうですね。・・・感づいたかな。
・・・俺、芝刈りますよ。
「あら、ちょうど旦那が風邪で先週できなかったのよ。
助かるわ、ヨシありがとう。お願いするわ」
へへへへ・・・。
電動芝刈り機で5坪くらいの庭の芝を狩った。汗だく。
終わってお茶飲んでたら、作田君が帰って来た。
一緒に太田君の下宿へ行くことにして、じゃあ失礼しま~す。
「困ったらいつでも来なさいね」 うれしいね。
大田君の下宿の、上等なソファに腰掛けてビールで乾杯。
BBCからイマジンが流れる。 歌詞はまるで俳句だ。
やっぱりロンドンは落ち着く。安らぐね。
夕方、ピカデリーに出て三人でパブで飲んだ。
久し振りに色んな話。 赤軍がイスラエルで暴れたとか、
ジョンは今日本に居るとか、JALの食堂が閉鎖したとか。
レディングのコンサート情報やクオーターズクラブの話。
リンカーンフェスの時の話。
そんで、作田君が下宿出るって話になった。
そうか、俺も7月3日でビザ切れるし、延長しなきゃな。
アパートか・・・俺も住んでみっかな。
9時まで飲んで別れてユースに帰った。
夜、手紙を開ける。 おお、いっぱい来てる。
むひひ、寝る前に一人ベッドで日本からの手紙を読むとき、
・・・ノスタルジーってやつ、ちょいセンチ。
手紙書いても、いつ来るかわからねえ返事の待ちどおしさ。
留置所の面会以上だ・・・知らねえけど。
ミミが10月に来るって。 やっと金貯めたか。
モスパックの奴がアフリカ行くって。赤池君だ。
大将は今、北欧で9月にロンドン来るらしい。金あるしな。
日本の奴等は俺に羨望と興味。 でもよ、そうでもねえよ。
人に自慢できるような生活はしてねえ。へっへっへ。
アンの手紙はまだ来てない・・だめかな。 NY行きてえ。
次の日、大使館でビザ延長した。
千ドルチェックの見せ金と下宿の住所で3カ月OK。
ミミが来る前にアパートでも探すかな。
それからしばらくは、コンサート三昧だった。
マーキーでハンブルパイやクラプトンにアンコールし、
ロッドスチュワートにぶったまげ、無名のブルースギターに
もっとぶったまげたり、
ニッキーホプキンスやロイブキャナンに聞き惚れ、
ピーターフランプトンやフィルコリンズに幻滅し、
エマーソンやイエスにがっかりし、とにかく観まくった。
また、レコード屋と古着屋とコンサートで1日つぶしたり、
チャリングクロスでクロサワのレッドサン観たり、
ゴダールウイークで気違いピエロとか6本立観たり、
楽器店でラディックのブルーオイスター叩いたり、
ポルトベロで1ポンドで子供用のジーパン買ったり、
ハイドパークで本読んだり手紙書いたり、ラリったり。
NMEのタイコに応募したり、日本人のおのぼりさんを
バッキンガム連れてったり、名所はほとんどこの手で只見した。
6月25日 やったぜ! アンの友人から手紙来た。
「私はアンの友人です。あなたがアメリカに来るなら是非私の
家に泊って楽しんで下さい。何でもお世話しますよ待ってます」
うっひっひ、台本通りだ。イヤッホー。
翌日、早速アメリカ大使館へ行く。
パスポートとトラベラーズチェック、偽学生証と下宿の住所と
例の手紙を見せて、1時間待ち。
待ってる奴等に、知ってる日本人の顔もいる。
「お前、どこ取るの」
アメリカだよ。
「ええ!難しいんじゃねえの」
そう、難しいよ。ッヒッヒ。
「赤軍が暴れたんで、いま日本人は目つけられてさ・・」
「ネクスト、ミスターコバヤシ」 俺の名前が呼ばれた。
入国ビザOK。 イッヤッホー!
<合衆国政府はあなたの入国を認めるので12月26日までに
アメリカに入国して下さい>
よおうしゃあ!
さっそくアンの友人って奴にお礼の手紙を出した。
大将にもアメリカのビザ取れたって報告。
ついでに、日本や友達やドンバ仲間に書きまくる。
下宿に行ってミセスケーンや作田君と大田君にも話した。
ミセススケーン「まあ!あなた本当なの?気をつけてね」
太田君「NY行ったらさ、ビレッジバンガード行ってこいよ」
作田君「すごい街らしいじゃん。うらやましいよ」
でもまだ半年近くあるしな、このままくすぶっても・・・。
よし、暖ったかくなってきたしヨーロッパ行くかな。
決めたら早い。善は急げだ、the sooner ,the better グヒヒ。
金田、悪いな、俺旅行ってくるわ。部屋シェアは終わりだ。
7月9日(日)快晴。
大田君の下宿に荷物を取りに行き、ミセスケーンにも挨拶。
ストレッサムコモン10:32の列車に乗りこんだ。
12:15ハリッジ着。3カ月前にオランダから着いた港だ。
あん時ゃ心細かった、でも今じゃ一丁前だぜ。
自動販売機をごまかすまで成長しちゃった。 へへ。
5ペンスコインが1マルクコインと同じ。
フェリー代浮くまで煙草出してやった、ひっひっひ。
海は真っ青、波白く、空は光ってちぎれ曇。
きっと奴等も乗った、ハンブルグ行きのこのフェリーに
今、俺も乗ってる。じーん、じーんだ。シミルね。
船は1時に出港した。 ジャーン!
バースのカレー屋、5日でクビ。
あ~あ、もやしにやられるとは思ってなかったぜ。
fuckin bean sproutsめ!
腐ったもやしみたいに、うなだれてロンドンに戻った。
夕方、ユースの食堂で妙にもやしが食いてえ。くっそ。
チャイニーズレストラン行って、もやしそばを食った。
ひえー、こんな形のトラウマもあるのか、ばかみてえだ。
さあ、まずはヤサ探しだ。
きょうはアールズコートのユースだが不便でしょうがねえ。
かといって、またミセスケーンってわけにゃいかねえし。
おっ、そうだ金田だ。奴のアパートに転がり込むか。
住所調べて行ってみた。リージェントパークの隣でいい所。
もひとり日本人が居てシェアしてる。 汚ねえが広い。
奴等も部屋代助かるって言うし、ベッド入れてもらって、
しばらく世話になることにした。週10ポンド、まあいいか。
翌日、久々にストレッサムコモンのミセスケーンの所へ。
「あら?どうしたのヨシ、バースじゃなかったの?」
ええ、ちょっと休みをもらったんで、手紙取りに来ました。
「あらそうなの、よく来たわ。手紙10通くらい来てるわよ。
ところでバースの仕事はどう?」
ええ、仕事はすごく楽しくて、元気でやってますよ。
いつもの濃いお茶とビスケット出してくれた。
前掛け姿のミセスケーン。いい匂い。
テーブルに両肘ついて、顎を乗せる得意のポーズで、
「ねえ、日に焼けたんじゃない? 元気そうね。
ヨシは何でも挑戦するのね、勇気があるし若いっていいわね」
いやあ、ミセスケーンのお陰ですよ。
あん時拾ってもらわなかったら、俺今頃どうなってたか。
「バースは暖かくていい所ね。私も一度行ったことあるわ。
ヨシが働いてるうちに遊びに行こうかしら」
いやあの、まあそうですね。・・・感づいたかな。
・・・俺、芝刈りますよ。
「あら、ちょうど旦那が風邪で先週できなかったのよ。
助かるわ、ヨシありがとう。お願いするわ」
へへへへ・・・。
電動芝刈り機で5坪くらいの庭の芝を狩った。汗だく。
終わってお茶飲んでたら、作田君が帰って来た。
一緒に太田君の下宿へ行くことにして、じゃあ失礼しま~す。
「困ったらいつでも来なさいね」 うれしいね。
大田君の下宿の、上等なソファに腰掛けてビールで乾杯。
BBCからイマジンが流れる。 歌詞はまるで俳句だ。
やっぱりロンドンは落ち着く。安らぐね。
夕方、ピカデリーに出て三人でパブで飲んだ。
久し振りに色んな話。 赤軍がイスラエルで暴れたとか、
ジョンは今日本に居るとか、JALの食堂が閉鎖したとか。
レディングのコンサート情報やクオーターズクラブの話。
リンカーンフェスの時の話。
そんで、作田君が下宿出るって話になった。
そうか、俺も7月3日でビザ切れるし、延長しなきゃな。
アパートか・・・俺も住んでみっかな。
9時まで飲んで別れてユースに帰った。
夜、手紙を開ける。 おお、いっぱい来てる。
むひひ、寝る前に一人ベッドで日本からの手紙を読むとき、
・・・ノスタルジーってやつ、ちょいセンチ。
手紙書いても、いつ来るかわからねえ返事の待ちどおしさ。
留置所の面会以上だ・・・知らねえけど。
ミミが10月に来るって。 やっと金貯めたか。
モスパックの奴がアフリカ行くって。赤池君だ。
大将は今、北欧で9月にロンドン来るらしい。金あるしな。
日本の奴等は俺に羨望と興味。 でもよ、そうでもねえよ。
人に自慢できるような生活はしてねえ。へっへっへ。
アンの手紙はまだ来てない・・だめかな。 NY行きてえ。
次の日、大使館でビザ延長した。
千ドルチェックの見せ金と下宿の住所で3カ月OK。
ミミが来る前にアパートでも探すかな。
それからしばらくは、コンサート三昧だった。
マーキーでハンブルパイやクラプトンにアンコールし、
ロッドスチュワートにぶったまげ、無名のブルースギターに
もっとぶったまげたり、
ニッキーホプキンスやロイブキャナンに聞き惚れ、
ピーターフランプトンやフィルコリンズに幻滅し、
エマーソンやイエスにがっかりし、とにかく観まくった。
また、レコード屋と古着屋とコンサートで1日つぶしたり、
チャリングクロスでクロサワのレッドサン観たり、
ゴダールウイークで気違いピエロとか6本立観たり、
楽器店でラディックのブルーオイスター叩いたり、
ポルトベロで1ポンドで子供用のジーパン買ったり、
ハイドパークで本読んだり手紙書いたり、ラリったり。
NMEのタイコに応募したり、日本人のおのぼりさんを
バッキンガム連れてったり、名所はほとんどこの手で只見した。
6月25日 やったぜ! アンの友人から手紙来た。
「私はアンの友人です。あなたがアメリカに来るなら是非私の
家に泊って楽しんで下さい。何でもお世話しますよ待ってます」
うっひっひ、台本通りだ。イヤッホー。
翌日、早速アメリカ大使館へ行く。
パスポートとトラベラーズチェック、偽学生証と下宿の住所と
例の手紙を見せて、1時間待ち。
待ってる奴等に、知ってる日本人の顔もいる。
「お前、どこ取るの」
アメリカだよ。
「ええ!難しいんじゃねえの」
そう、難しいよ。ッヒッヒ。
「赤軍が暴れたんで、いま日本人は目つけられてさ・・」
「ネクスト、ミスターコバヤシ」 俺の名前が呼ばれた。
入国ビザOK。 イッヤッホー!
<合衆国政府はあなたの入国を認めるので12月26日までに
アメリカに入国して下さい>
よおうしゃあ!
さっそくアンの友人って奴にお礼の手紙を出した。
大将にもアメリカのビザ取れたって報告。
ついでに、日本や友達やドンバ仲間に書きまくる。
下宿に行ってミセスケーンや作田君と大田君にも話した。
ミセススケーン「まあ!あなた本当なの?気をつけてね」
太田君「NY行ったらさ、ビレッジバンガード行ってこいよ」
作田君「すごい街らしいじゃん。うらやましいよ」
でもまだ半年近くあるしな、このままくすぶっても・・・。
よし、暖ったかくなってきたしヨーロッパ行くかな。
決めたら早い。善は急げだ、the sooner ,the better グヒヒ。
金田、悪いな、俺旅行ってくるわ。部屋シェアは終わりだ。
7月9日(日)快晴。
大田君の下宿に荷物を取りに行き、ミセスケーンにも挨拶。
ストレッサムコモン10:32の列車に乗りこんだ。
12:15ハリッジ着。3カ月前にオランダから着いた港だ。
あん時ゃ心細かった、でも今じゃ一丁前だぜ。
自動販売機をごまかすまで成長しちゃった。 へへ。
5ペンスコインが1マルクコインと同じ。
フェリー代浮くまで煙草出してやった、ひっひっひ。
海は真っ青、波白く、空は光ってちぎれ曇。
きっと奴等も乗った、ハンブルグ行きのこのフェリーに
今、俺も乗ってる。じーん、じーんだ。シミルね。
船は1時に出港した。 ジャーン!