印毎来譜 「俺等はヒッピーだった」
1972年7月24日 アンジストロン島の白い民宿。

臨時民宿の部屋は20畳くらい。 床はコンクリ。
水色ペンキの木製の観音開きの窓開けて、
つっかい棒で止めると潮風がくる。

目の前は海、部屋も景色もまるでフェリーニだ。

すげえすげえ。
 
パンツ一丁でテラスに出る。



地中海、光る海、小さい島がいくつも見える。

「おおジャポネジャポネ カリスペーラ!」

家中の奴、泊り客も部屋に入ってきた。

おやじ、おばちゃん、おねえちゃんが三人。 
愛想もいい。 だいち可愛い。
 
いい匂いで、至近距離で俺の顔を覗きこむ。

ほっほー、おねえちゃんジャポネなんか初めてか。
よっし! いいものあげるよ。

得意の五円玉で遊ぶ。

これはさあ、愛のキューピッドコインだ。
表が出たら君は俺と結婚だ。 いい?
裏が出たら俺が君と結婚だ。 はっはっは
 
うっきゃっきゃ。言葉なんか通じなくても
うれしそうに身振り手振りのおねえちゃん達。

屈託なく、はしゃぎ笑う、警戒心なんてない。
 
トスして俺の手の甲にビタビタ貼り付ける。
おねえちゃんの柔らかくて冷たくて小さい手。 

赤い薄い唇が笑って、黒い髪の毛が揺れる。

ぐおおお!天国だあ。たまんねえぞー。
1年中でもやってられるぞ。


女将がなんか呼んだ。

「昼飯だよ~20ドラクマだよ~」 

はいよ~今ゆくよー。

魚のフライ4匹、ポテトフライとパンとスープ。
ベランダ付きの広い食堂で、海見ながら食う。

ウゾ飲んで眠むくなった。


背中ヒリヒリ腕も首も熱い、痛い。
裸焼きはダメだな。

部屋の床にうつ伏せで昼寝。
波の音が聞こえる・・・いびきが聞こえる・・・
・・・また波の音になって・・・いびき・・・


起きたらおねえちゃんと海で遊ぶ。

背中にオリーブオイル塗ってもらって、一緒に泳いで
キスして、晩飯食って酒飲んで。

うおー! どひゃー! 
 

浮世絵の風呂敷きすげえ喜んだ。

「おおウタマロ!フジヤマ!あなたもウタマロか?」 

おお・・・まあな
日本人は全部ウタマロよ、全身な。ぎゃっはっは 


夜は食堂で全員集合。 泊り客入れて15人くらい。

ギリシャ民謡を生楽器で演る。いい音色。

あんちゃんが弾くとばあさんも踊る。
じいさんも唄う、おねえちゃん手拍子、笑う笑う。

そんで飲んだくれて寝ころぶ。
ベッドより地べたのコンクリが冷たくていい。

月が明るすぎて、寝る気になれねえ。
脳味噌が溶けてく・・・楽園だぞ・・・うっしっし。


翌日、島に1軒しかないスーパーに食糧買出し。

昼飯はスパゲティーとポテトとウゾ。
それと和歌山が取って来たタコ3匹にパンとトマト。
腹いっぱいで昼寝。

真水のポリタンクシャワーは5dr、
海水シャワーはタダ。水は貴重だ。

光る海、熱い太陽、おねえちゃんの笑い声、潮の匂い。

1日中ごろごろごろごろ天国。

ギリシャの船員ていえばザキの上客だ。
ギリシャとはなにかとご縁があるってわけだ。
さーいーこーだよお


次の日も和歌山が潜る。タコ5匹の大漁。

海岸で、ピーマン、ナス、卵にオリーブオイル入れて、
フライパンでタコ焼いて食ってたら、島の人が
20人くらい集まって来た。

村で一人しかいない警官も来た。
タコを焼いて食うのがめずらしいって、へえ。

島ではタコは石で叩いて、乾して細切りにしてサラダに
入れて食うって。

タコ食うのはギリシャとスペインくらいだって。

へえそうか、知らなかったな。

タコは悪魔の手先だって。 

俺等は神の手先だよ、へへへ。 


4日目、名残惜しいがアテネに帰るって事になり、 
宿のみんなにさよならする。

おばちゃんに抱擁して、ねえちゃんに五円玉あげて、
また来るよお~元気でなー。

港へ行ったら、次の船は12時半。まだ3時間ある。

海ブラついてたら、御機嫌な水着の娘がひとり。

こんちわ!名前なんてえの? 

「わたしツーラっていうの」 

微笑み満タン天使の瞳。 いやっほ~

コーヒーでも飲む? 

「じゃあ、わたしコーラで」

そんで君いくつなの?

「15よ」



おお!おお、天使だモノホンだ。

俺はウゾ飲むね、ウゾ大好きさ。 
そんで君も大好きだよ。

こういう娘がいたんだな~・・・く~。

しかしなんでよりによって帰る日なんだ。ったく

波止場の端っこに座って、二人の足がブーラブラ。
瞳、唇、笑顔、地中海、目に焼きつけてさよならか・・ 
後ろ髪だぞーちっきしょー。

エフカリスト ツーラー また来るぜー。


アジナの港に着いて、3人はすぐアテネに戻った。

俺と社長と明学は、釣りしながら昼寝しながら、
安食堂で飯食って、名残を惜しんでるうちに夜。

海岸で野宿。 最後の島をギリギリまで惜しむ。


翌朝、港で25Dを18Dにまけさせて船に乗り込む。
揺られて遠くなるアンジストロン また来るよー。


アテネの第2ユースで、久々の真水のシャワー。

伝言版にへたな日本字がある。

「シンタクマで会おう」 

こりゃ、とっつあんの字だ。

シンタクマ広場に行き、2時間ほどブラつくと来た。
ウゾの酒瓶を持って、とっつあん仁枝が来た。
タベルナでスパゲティーつまみにウゾを飲む。

いやあ、島は結構面白かったな。
おお、観光地じゃないから面白いんだ。

とこおろで、とっつあん これからどこ行くの?

「モロッコ行って中近東インド通って、日本帰る。
日本で再会しよう。明日はデルフィー行ってくる」

俺は残り12ドルのチェックと現金11ドル。
あとは300ドラクマだけ。

モロッコもスペインも行きてえけど、行っても
ロンドン戻る金がねえ。 
一旦ロンドン戻るか。 しょうがねえ、あーあ。


8月に入っても、まだアテネのユースで遊んでる。

昼間は昼寝、夕方5時頃から動き出す。
こういうのは性に合ってるドンバ体質。

シンタクマで1軒だけ、冷房付きタベルナを見つけた。
可愛いねえちゃんの居る、お土産屋も。

いいレートの闇屋も、日本味のアイスクリームの屋台
も見つけた。

明日デルフィー行ってみっかな。
葡萄の皮でつつんだ飯があるってとっつあんが言ってた。
美味そうだな。 へへ

屋上で10通手紙書いてウゾ飲んで、おやすみ。


次の日、デルフィーへ出発。

道はひどい、バス4時間。ケツが痛え。

涼しい高原だ。すげえ小さい町、ユースは1軒だけ。

ユースに行くと、とっつあんが居た。

ウゾ飲んで旅の話。 
奴は歴史をよく知ってる。中大中退柔道段持ちの旅人。

涼しくて久しぶりにぐっすり寝た。来てよかった。



次の日、日曜だから遺跡はタダ。いいね歴史より金だ。

ローマ時代だかのいろんな遺跡を見て回った。

夜、ユースに2m6cmのドでかいアメ公が来た。
そのジョンが庭でハーモニカで吹くサマータイム。
クーッ 最高だぜ。

2泊してアテネに戻った。


アテネはデルフィーの倍暑い。

オモニアの中央郵便局で、日本からの手紙を2通
受け取って、シンタクマのスチューデントオフィスで
ローマからロンドンまでの汽車切符を買った。

アテネからイタリアのブリンディシまでは船で渡る。
イタリアからローマの汽車賃34.6ドル、残り61ドル。

金がなくなってきた、そろそろやばい。
ロンドン戻ったらバイトだ。暮れにゃNYに出稼ぎだ。



8月11日、10時。
とっつあんはエアーでカイロへ発った。

和歌山は3日前にイスタンに飛び、社長は日本からの送金
待ちでアテネにまだ居るって。

そんなこんなで、3週間のギリシャ愚連隊は解散した。

う~ん 最高だった、おもしろかったー。

マーケット行って、作田君と大田君に布バッグ、
弟にペナントの土産を買う。


夕方5時5分、62番のバスでアテネ港へ向かう。

途中、飯はシシカバブ2本。

夜9時、やっとアテネ港についた。

イマジンのかかる安食堂で、トマトスパとパン食う。


夜9時40分。ブリンディシ行きの船に乗り込んだ。

しかし、ギリシャ、思った以上によかったー。

あ~あ帰るのか~。





< 25 / 113 >

この作品をシェア

pagetop