印毎来譜 「俺等はヒッピーだった」
1972年11月25日。寒い。
働いた働いた。今までで一番働いたぞ。
女郎、馬車馬、南極犬タロー。男工哀史だ。
通しの時は8時起き。店まで歩って20分。寒い。
店に9時過ぎに入る。 長靴履いてエプロンして鉢巻巻いて、
元気よくドアを開ける。
おーざいやーす!
「お、ごくろさん。お前、桂剥きやってみるか?」
カツラムキ? 落語家か?
「きょうヒマだしな、教えてやるからよ」
30代の板さん、得意げに手本を見せる。
でかい包丁で大根を剥く。紙みてえにつながって切れねえ。
こりゃもうマジシャンだ。
「なっ、ほら、やってみろ」 素人をけしかける板さん。
お世辞で、いやあ、むずかしいっすね。
「はっは、左手がダメだな。そこは・・」
できるわけねえだろ、俺はバンドマンだ。
こうしてゴマすっとけば、いい飯を作ってくれる。
ヒマん時は板さんのかつ丼や肉丼が食える。
忙しいと、自分で味噌汁ぶっかっけ飯。
でも、お陰でりんごの皮剥けるようになった。ヒヒ
早番終わったら、ビールケースの谷間でダンボール敷いて昼寝
そのあとは夜11時まで、皿洗いまくる。
立ちっぱなし。赤マムシじゃねえ。
夜12時前にバンコーのねぐらに帰る。
401から911、912、712と部屋を回って酒飲む。
グチって泣いて暴れる奴もいる。
最高から最悪まで、何でも手に入るNY。生と死隣りあわせ。
大げさじゃねえ。不安と緊張の中、次の旅を目指して金貯める。
テンションはいつもピンピン、安まる時はねえ。
飲んだくれて、気が付いたら寝てる毎日。 へへへ
「お前、最近やばいよ。酒か草か」
いいや、俺は正気だ。ここが狂気だろ・・・
自立神経だって出張する。ニューヨーク バンコー
誰だって、そりゃおかしくなる。
11月27日。晴れ寒い。
いつものように11時で終わり、51丁目を歩く。ひっひ
きょうはなんの日だ? 俺の誕生日、22だぞ。
他人の誕生日心配するたまはバンコーにゃ居ねえか。
じゃ、日本酒でも買うかな。
50丁目の酒屋に入る。 なにい15ドル!?
ウイスキー9ドルなのに。ばかやろめ。
4件隣が楽器屋。久々に覗いてみる。
ラディック、ロジャース。勿論モノホンです。
おっ、スリンガーランドのスネア20ドルだ。
中古だけど、誕生日プレゼント。自分でお祝いしちゃおう。
よーし、おやじ! それくれ!俺の誕生日だ。
スティックをサービスで付けさせて、キーもブラシも付けて
しめて20ダラー。 おやじに嫌な顔されたがOKOK。
よーっし、スネア買っちゃったぞおー。
黒人みてえに、スネアかついで唄いながらブロードウエイを歩く
サーイコーだぜえ、ハッピバースデイだあ!
バンコーのロビーで新入り日本人が寄って来た。
「おっ?なにそれ?」
へっへっ スネアよ、ドラムよ。
「へえ 買ったの? 俺ギター演るんだけど」
1110室に連れてきて一緒に飲む。
奴は自分の部屋からギター持ってきた。日本製だ。
「ゆかた~の~きみ~わ~」
おいおい、何だよそれよ。
「知らねえのかタクローだぜ」
タクロー?なんだか知らねえけど、そんなもん演るんじゃ
ゴクローさんだ。せめて禁じられた遊びかなんかと思ったぜ。
それじゃまるでナガシじゃねえか。
ちょっと留守してたら日本はこんな軟弱か?
ギターやってたなんて笑わせんな。
タイコはこうやってよ、トン!バシツ!ひっひ
タムもシンバルもバスドラもあるもんとして、自然に手も足も
動いちゃう。習慣は恐ろしいね。 まあ、これが
昔とったきねづか、男はいけねえ宝塚、きょうも打った篠塚だ。
大将が入ってきた。
「なんやねん、やかましい」
そりゃそうだ、夜中1時だもんな。はっは
でもおもしれえなって、一緒に飲みだした。
そのうち、部屋に入りきらないほど観客が来た。
どら、俺にも演らせろよ。
スパイダース演れ。酒ねえぞ。サキイカくれ。
サックスはねえのか。女居ねえのか。誰か踊れ!
南部牛追い唄やれ。佐藤首相呼べ。
タバコくれジョイント作れ。蕎麦食いてえ。
タンバリン振る奴、ふんどし振り回す奴、寝袋で闘牛士になる奴。
壁に向って御経唱える奴、シャツ破る奴、裸で笑い転げる奴。
泣き出す奴、吐く奴、逆立ちする奴、窓から叫ぶ奴。
白粉塗って口紅塗りたくる奴、サンタの帽子でフラメンコ踊る奴。
空手の形やる奴、寝転んでラリる奴。手紙見ながら泣く奴・・・。
そう、みんなハイテンションのかたまりだ。っひっひ
突然、鈴木プリンスが唄いだす。ハッピバースデートウユー
なんだ? 俺の誕生日知ってるはずねえのに・・・。
そんで、プリンスが立ち上がった。
「おめでとう! きょうはジーザスの22の誕生日だ」
おっ、知ってたの? いやそうか、ありがと。
俺の為に唄ったのかよ・・・。
「じゃあ、みんなでジーザスに乾杯 おめでとう!」
ワインとケーキまででる。鈴木、いいとこあるじゃん。
お前のおかげでいい誕生日になったぞ。ありがと。
目が覚めたら、ごみ溜めみてえな部屋になってた。
ミミからバースデーカードが来てた。皆ありがとさん。
出掛けにフロントのばばあに呼ばれた。
「あんた達、昨夜うるさかった。二度とだめ。20ドル罰金」
っふ、まあいい。俺の大事な22の誕生日だ、払ってやるわ。
12月5日 給料日。129ドルとチップ14ドル。
風邪で休んだ日あったけどこれじゃあダメ。明日値上げ交渉だ。
同室の佐倉とたくらんで、時給アップ時間2ドル作戦。
ダメなら辞めてやる。やったるぜチッキショウ。
・・・しかし甘かった。
「金は上がらないよ。仕事も同じだ。ウエイターなら時給2ドル
出すけど、髪の毛切らないとだめ」
っへ、日本人マネージャーは冷たく静かに、怒りもせず淡々と
のたまわりやがった。慣れてやがる。
ああ、そうですか。わかりました。じゃあきょうで辞めます。
「わかった。じゃ、2週間後に給料取りに来てね」
てめえ!俺等が辞めるって困るだろ・・
・・・って、困りゃしねえ。替わりは腐るほど居る。
佐倉と、明け方店の裏口からビール3ケース、
タクシー乗って盗んで皆で飲みまくった。
12月7日 大将からイミグレが入るって情報。
薬とビザ切れはパクられるって話。
皿洗ってるのはカンケーなしって事らしい。
じゃあ、ビザ延長したし問題ねえな。
さて、仕事探すべ。
今度はひとりでマンハッタンの街へ、職探し。
けやき、江戸、チキテリ回るがダメ。 時期が悪い。
クリスマスを前に誰も辞めやしねえ。
佐倉はロッキー青木の住込み運転手でなんとか面接受かった。
っきしょうめ。
持ち金、チェック400にキャッシュ250。こりゃやばい。
宝田が18日にロンドン行くってんで、俺のアパート紹介して
やった。そしたらお礼にって50ドルくれた。
悪りいな、せっかくだしもらっとくよ・・・うん、不労所得か。
鈴木に、日本から送ってもらったフィルム3本売った。
スネアも売るかな・・・。
その夜、部屋のスチームが故障しやがった。
コート着てマフラーして、部屋で野宿だ。
もうすぐクリスマスだぜ、あーあ。
ニューヨーク ぎゃおお!
働いた働いた。今までで一番働いたぞ。
女郎、馬車馬、南極犬タロー。男工哀史だ。
通しの時は8時起き。店まで歩って20分。寒い。
店に9時過ぎに入る。 長靴履いてエプロンして鉢巻巻いて、
元気よくドアを開ける。
おーざいやーす!
「お、ごくろさん。お前、桂剥きやってみるか?」
カツラムキ? 落語家か?
「きょうヒマだしな、教えてやるからよ」
30代の板さん、得意げに手本を見せる。
でかい包丁で大根を剥く。紙みてえにつながって切れねえ。
こりゃもうマジシャンだ。
「なっ、ほら、やってみろ」 素人をけしかける板さん。
お世辞で、いやあ、むずかしいっすね。
「はっは、左手がダメだな。そこは・・」
できるわけねえだろ、俺はバンドマンだ。
こうしてゴマすっとけば、いい飯を作ってくれる。
ヒマん時は板さんのかつ丼や肉丼が食える。
忙しいと、自分で味噌汁ぶっかっけ飯。
でも、お陰でりんごの皮剥けるようになった。ヒヒ
早番終わったら、ビールケースの谷間でダンボール敷いて昼寝
そのあとは夜11時まで、皿洗いまくる。
立ちっぱなし。赤マムシじゃねえ。
夜12時前にバンコーのねぐらに帰る。
401から911、912、712と部屋を回って酒飲む。
グチって泣いて暴れる奴もいる。
最高から最悪まで、何でも手に入るNY。生と死隣りあわせ。
大げさじゃねえ。不安と緊張の中、次の旅を目指して金貯める。
テンションはいつもピンピン、安まる時はねえ。
飲んだくれて、気が付いたら寝てる毎日。 へへへ
「お前、最近やばいよ。酒か草か」
いいや、俺は正気だ。ここが狂気だろ・・・
自立神経だって出張する。ニューヨーク バンコー
誰だって、そりゃおかしくなる。
11月27日。晴れ寒い。
いつものように11時で終わり、51丁目を歩く。ひっひ
きょうはなんの日だ? 俺の誕生日、22だぞ。
他人の誕生日心配するたまはバンコーにゃ居ねえか。
じゃ、日本酒でも買うかな。
50丁目の酒屋に入る。 なにい15ドル!?
ウイスキー9ドルなのに。ばかやろめ。
4件隣が楽器屋。久々に覗いてみる。
ラディック、ロジャース。勿論モノホンです。
おっ、スリンガーランドのスネア20ドルだ。
中古だけど、誕生日プレゼント。自分でお祝いしちゃおう。
よーし、おやじ! それくれ!俺の誕生日だ。
スティックをサービスで付けさせて、キーもブラシも付けて
しめて20ダラー。 おやじに嫌な顔されたがOKOK。
よーっし、スネア買っちゃったぞおー。
黒人みてえに、スネアかついで唄いながらブロードウエイを歩く
サーイコーだぜえ、ハッピバースデイだあ!
バンコーのロビーで新入り日本人が寄って来た。
「おっ?なにそれ?」
へっへっ スネアよ、ドラムよ。
「へえ 買ったの? 俺ギター演るんだけど」
1110室に連れてきて一緒に飲む。
奴は自分の部屋からギター持ってきた。日本製だ。
「ゆかた~の~きみ~わ~」
おいおい、何だよそれよ。
「知らねえのかタクローだぜ」
タクロー?なんだか知らねえけど、そんなもん演るんじゃ
ゴクローさんだ。せめて禁じられた遊びかなんかと思ったぜ。
それじゃまるでナガシじゃねえか。
ちょっと留守してたら日本はこんな軟弱か?
ギターやってたなんて笑わせんな。
タイコはこうやってよ、トン!バシツ!ひっひ
タムもシンバルもバスドラもあるもんとして、自然に手も足も
動いちゃう。習慣は恐ろしいね。 まあ、これが
昔とったきねづか、男はいけねえ宝塚、きょうも打った篠塚だ。
大将が入ってきた。
「なんやねん、やかましい」
そりゃそうだ、夜中1時だもんな。はっは
でもおもしれえなって、一緒に飲みだした。
そのうち、部屋に入りきらないほど観客が来た。
どら、俺にも演らせろよ。
スパイダース演れ。酒ねえぞ。サキイカくれ。
サックスはねえのか。女居ねえのか。誰か踊れ!
南部牛追い唄やれ。佐藤首相呼べ。
タバコくれジョイント作れ。蕎麦食いてえ。
タンバリン振る奴、ふんどし振り回す奴、寝袋で闘牛士になる奴。
壁に向って御経唱える奴、シャツ破る奴、裸で笑い転げる奴。
泣き出す奴、吐く奴、逆立ちする奴、窓から叫ぶ奴。
白粉塗って口紅塗りたくる奴、サンタの帽子でフラメンコ踊る奴。
空手の形やる奴、寝転んでラリる奴。手紙見ながら泣く奴・・・。
そう、みんなハイテンションのかたまりだ。っひっひ
突然、鈴木プリンスが唄いだす。ハッピバースデートウユー
なんだ? 俺の誕生日知ってるはずねえのに・・・。
そんで、プリンスが立ち上がった。
「おめでとう! きょうはジーザスの22の誕生日だ」
おっ、知ってたの? いやそうか、ありがと。
俺の為に唄ったのかよ・・・。
「じゃあ、みんなでジーザスに乾杯 おめでとう!」
ワインとケーキまででる。鈴木、いいとこあるじゃん。
お前のおかげでいい誕生日になったぞ。ありがと。
目が覚めたら、ごみ溜めみてえな部屋になってた。
ミミからバースデーカードが来てた。皆ありがとさん。
出掛けにフロントのばばあに呼ばれた。
「あんた達、昨夜うるさかった。二度とだめ。20ドル罰金」
っふ、まあいい。俺の大事な22の誕生日だ、払ってやるわ。
12月5日 給料日。129ドルとチップ14ドル。
風邪で休んだ日あったけどこれじゃあダメ。明日値上げ交渉だ。
同室の佐倉とたくらんで、時給アップ時間2ドル作戦。
ダメなら辞めてやる。やったるぜチッキショウ。
・・・しかし甘かった。
「金は上がらないよ。仕事も同じだ。ウエイターなら時給2ドル
出すけど、髪の毛切らないとだめ」
っへ、日本人マネージャーは冷たく静かに、怒りもせず淡々と
のたまわりやがった。慣れてやがる。
ああ、そうですか。わかりました。じゃあきょうで辞めます。
「わかった。じゃ、2週間後に給料取りに来てね」
てめえ!俺等が辞めるって困るだろ・・
・・・って、困りゃしねえ。替わりは腐るほど居る。
佐倉と、明け方店の裏口からビール3ケース、
タクシー乗って盗んで皆で飲みまくった。
12月7日 大将からイミグレが入るって情報。
薬とビザ切れはパクられるって話。
皿洗ってるのはカンケーなしって事らしい。
じゃあ、ビザ延長したし問題ねえな。
さて、仕事探すべ。
今度はひとりでマンハッタンの街へ、職探し。
けやき、江戸、チキテリ回るがダメ。 時期が悪い。
クリスマスを前に誰も辞めやしねえ。
佐倉はロッキー青木の住込み運転手でなんとか面接受かった。
っきしょうめ。
持ち金、チェック400にキャッシュ250。こりゃやばい。
宝田が18日にロンドン行くってんで、俺のアパート紹介して
やった。そしたらお礼にって50ドルくれた。
悪りいな、せっかくだしもらっとくよ・・・うん、不労所得か。
鈴木に、日本から送ってもらったフィルム3本売った。
スネアも売るかな・・・。
その夜、部屋のスチームが故障しやがった。
コート着てマフラーして、部屋で野宿だ。
もうすぐクリスマスだぜ、あーあ。
ニューヨーク ぎゃおお!