印毎来譜 「俺等はヒッピーだった」
きょうはなんにちだ。昼すぎ起きたが三日酔。
とうとう終わった、バレンシア火祭り。
いやー最高、ゴキゲンでした。
ノルウエーと日本人、朝帰りだったのにもう荷造りだ。
せわしねえな、君達一般観光旅行者は予定で動くか。
「じゃあな、オスロで柔道の仕事あるぞ、紹介できるよ。
ノルウエー来たら、俺の家泊れよ。これ住所だ」
そういやあ柔道の話したっけな。ありがとにいちゃん、
行ったら寄せてもらうよ。 またどっかで会おうぜ。
気いつけてな、グッドラックだ。
急に静かになった安宿のベッドに寝転ぶ。
ゲップがワイン臭え。 ひっひ
そういやあインテリダム君、会わなかったな。
奴が教えてくんなきゃ、俺もあの祭知らなかった。
ダム君ありがとね、祭最高だったぜ。
1973年3月20日
さあて、地図見て次の行く先でも決めるか。
スペインはでかい、もうちょい南まで行ってみっかな。
グラナダか・・アルハンブラだな。
昔「遠くへ行きたい」で見た、あの城か。
それになんたって、あの髭のおっさんの有名な曲がある。
そういえば、昔あったパールの一番安いドラムセット。
あれ、なんでバレンシアセットだったんだろ。
ハイハット踏めばペコンとひっくり返り、シンバルは鍋蓋以下。
スネアはおもちゃ以下。結局使いもんなんねえでフジの3点と
ジルジャンをお茶の水で中古買った。高かったな・・・
午後、郵便局近くのスチューデントオフィスに行く。
24日で日本出て丁度1年、学生証が切れる。
更新しとかなきゃ大損こいちゃう。
宿から乗り物までヘタすりゃ半額になる。ここはどんな手使って
も学生になっとかなきゃなんねえ。学生証持てば学生だ。ひっひ
そこで、ちょっと作戦・・・開始。
カウンターに人の良さそうな小柄のおばちゃんひとり。
戸籍抄本のコピー、そうーっと大事そうに出して見せた。
「えー、これは日本の学生証です。私は成績優秀、特待生として
ヨーロッパを見聞し・・・スペインのお役にたてば・・」
おばちゃん、ニコッと笑って「36ptsよ」
さすが! 面倒は嫌いなラテン系だ。
しかも安い。 笑ってハンコ ポンッ!
よーし、これで1年間は学生だ、学割だ、格安だ。うっひっひ
若く有望なボク等を育てるヨーロッパ。さすがだね。
日本もちったあ見習えよ。 おばちゃん、グラシアス。
その足で航空券オフィスへ行く。
もう怖いもんはない、だって学生だもん。ウッヒッヒ。
ドイツ野郎から聞いといたマドリ→ロンドンのチケットをとる。
チケットさえ取っとけば安心、あとは遊ぶだけだ。
髭の小柄なおやじが出て来て、決まり切ったセリフ。
「4月はシーズンだから、これだよ。700ペセタ」
高えよ、おやじ。俺は学生だぞ。学業は優秀だが、貧乏学生だ。
なに? 学割で650? そりゃねえよおやじ。
俺りゃあヒッピーだ、観光客じゃねえ。
スペイン語だけのおやじ、両手を広げて参ったポーズ。
英語を話せる大学生だっていうおねえちゃんと交代した。
「あなた日本人でしょ?私いつか日本行きたいの ウフ」
そうか、是非来いよ。そん時きゃ俺ん家に泊まれよ。可愛いね。
ところで、俺みたいな真面目な学生にいいチケットある?
昨日キャンセルしたのがあるわって。 ほら! ざまあみろ。
さすが、学生同志は話が早いぜ。
534ptsよ、OK?
よし、決定。おねえちゃん、グラシアス。
4月5日? いいよいいよOKだ。 ヘッヘ やったぜ。
さあ、エアーは取れたし、もうこっちのもんだ。
駅行って、グラナダまでの列車切符を買う。
学生1枚下さいな。2等でね。今夜12時半?OK。
ユースに戻って支度。5分で完了、楽なもんだ。
どこ行ったって、4月5日にマドリに着けば問題なし。
チェックアウトの前に、ワンゲルおやじにゴマすっとくかな。
おやじ、火祭りすごかったぜ。それにここの宿は最高だ。
日本人皆にいっぱい宣伝してやるよ。
モグリユースのおやじ、ニッコニコ。
へっへ、俺、今夜発つからシャワー只で使わしてくれよ。
おやじ「OKOK お前、いいやつだ」
宿賃はまともに払った。
じゃあ、おやじ またな。 グラシアス、アディオス!
ヒッピーや学生のたむろす広場でパンとオレンジ食いながら、
カナ公やドイッチェ野郎から旅の情報をとる。
街にはまだ燃えカスが残る、ツワモノどもの祭の跡だ。
泣いてたお嬢ちゃん、晴れてよかったね。さよならだ。
11時過ぎ鉄道駅に行く。 夜だってえのに結構混んでる。
まあ、寝ちまえば関係ねえか。
12時前、グラナダ行きの夜汽車に乗りこんだ。
便所近くの二人掛け。隣に来た一人旅のおっさん。
無口なドイツ人。いいね、これでゆっくり寝られる。
3月21日。もう昼か、半日寝てた。ケツ痛え、腹へった。
あ、いい匂いだ。無口なドイツがなんか食ってる。
サラミとチーズのサンドイッチじゃんか。旨そう。
俺もパンとオレンジ出して食い始めたら目が合った、笑った。
そんで、チーズくれた。 おお、いい奴じゃんおっさん。
と思ったら25だって。 ええ?! 老けてやがんなあ。
奴も、俺の事高校生だと思ってたって。まあな。
しかしドイツ人の一人旅はどこの国も多い。文化かな。
夕方6時前、グラナダ駅着。 雨だ。17時間も乗ったぜ。
さっそく客引き数人やってきて、アミーゴ コニチワ ヤスイ。
俺の取り合いで、値切り合戦してたら日本人が二人来た。
「おおハポネ三人。ヤスイ、マイフレンド、トモダチプライス
ひとり50ペセタOK。 問題ない、アミーゴ」
日本人二人はスペイン語を喋る。たいしたもんだ。
場所とかシャワーあるとか聞いてる、らしい。
雨だし暗くなるし面倒だし、少し目つきのいい客引きに決めた。
そのおやじの案内で20分位歩いて白壁のペンションに着いた。
三人部屋にSちゃんとI君と俺。二人はスペインで語学勉強中。
スペインには3カ月居るって。
キ真面目に俺のヒッピー旅の話聞いてくる。勘弁してよ。
じゃ出掛けようぜ!
へえ! ここかあ。グラナダの街はバレンシアより古くて貧しい。
でも小雨のグラナダはイキフン最高、絵になる。
路地入ってパブでヴィノを一杯やる。労働者ばっかりの狭い店。
ヴィノ5pts、パン2個12pts。
飲んで食って三人で80pts。こりゃ今までで一番安いわ。
まだ雨止まねえな、きょうは帰って寝るべえ。
3月22日。 ペンションはチェックアウトした。
安くていいが最新情報が入らねえ。
やっぱり若いタビニンの集まるユースがいい。
朝飯付きで一人70pts。 まあまあか。
只のシャワー浴びて、天気はいいし石畳の街へ出て昼飯。
パエリャとパンでヴィノ飲みながら、きょうはどこ行こ・・・。
そうだアルハンブラよ。 こいつ等も初めてだって。
丁度いい、腹ごなしにぶらぶら行こうぜ。
20分位歩いて、丘くらいの山を登る。少し汗ばむくらい。
路地や坂道ってホントいいね、知らねえのに懐かしい。
道の両際に土産物の屋台。 皮バッグ、布バッグ、指輪。
時間早いし平日だし、客はまばらだ。
スペイン土産はなんたって火縄ライターだ。
スペイン行った奴、例外なく買ってくる。
リンの粉だかなんかを混ぜた黄色の縄ひもの先に、ライターの
擦るのがついてるだけ。 縄が2mのもある、腰に巻くらしい。
こりゃ相当役に立つシロモノ。風が吹こうとオイルがなかろうと、
金がなかろうが腹が減ってようが、確実に点く。
「オー ハポネ ライター90ptsヤスイ」
へっ、来たなおやじ。じゃ三個買うから1個20でどうだ。
「おおー冗談じゃないよ。3個なら250だ」
じゃ、いあらねえ。俺等は観光客じゃねえヒッピーだ。
「おい、待てアミーゴ。3個200、ハポネプライス」
俺等、歩きだす。おやじ、俺のジーパンをつかんで。
「よし、きょうはいい天気だ。150でいい」
俺等、顔見合わせて相談するフリ。
Sちゃんが、マーケット行けばもうちょい安いよって。
やるなSちゃん。 じゃ30なら買おうか。
そんでまた、シカトでゆっくり歩きだす。
おやじ、立ちあがった。火縄4本持って前に立ち塞がった。
「ハッハ お前等にゃ負けたよ。100でいい。
もうこれ以上負けたら、おかあちゃんに怒られるケンカになる」
そうか、そりゃ可哀そうだな。
しょうがねえ、100で買ってやるよ。
おやじもウッシ、俺等もウッシ。
アディオス!おかあちゃんによろしくな。
さあ、宮殿行こうぜ。
おおアルハンブラ!これか 思ったほどでかくねえな。
メトロポリスのほうがでかいな。
入場料10ptsか、こりゃ安い。
ほーお!この細かい精密精密繊細な壁、床も天井もこのモザイク。
ジグソーもまっ青だ。気が遠くなる目が回りそう。作った奴偉い。
I君が説明する 「これはね、モーロ人っていう今のモロッコの
人たちが作ったのよ。当時は・・」 へえ
やっぱり歴史だな。俺も少し勉強すっかな。
それにしてもこの空と空気。民族の歴史の宮殿。
・・・アルハンブラの思~い出~ 沁みるね~。